そこにはズタぼろになったベルの姿があった。
なにも言わず、ゆっくり立ち上がると、ベルは大いなる木に向けて歩き出した。
(昔の俺は自分に自信がなくて、他人の言うがままだった・・・)
ゆっくりと足をすすめる。
(でも今は自分の意志で行動している。)
また一歩を踏みしめる。
(さっきも、殴り返したりしないほうがいいと思って自信をもって自分の意思で拳を止めたんだ。)
また一歩。
(そうさ、俺は自信を持って胸をはっていればいいんだ。)
背筋を伸ばしてベルはみんなの待つ大いなる木への家路をたどる。
ベ「た、ただいま。」
ル「おかえりーベル。
どーしたのベル。その顔。」
ベ「いや、ちょっと角材が落ちてきて・・・」
ル「でもどうみてもソレ・・・」
ベ「親方にも、怒られて殴られちゃってさあ。まいったよ、はは。」
ル「・・・」
それ以上ルナはなにも聞かなかった。
ル「ちょっと待ってて。手当てしてあげるから。」
ベ「俺なら平気だよ。」
ル「待ってて。」
傷の手当を受けるベル。
丁寧に優しく手当てをするルナ。
静かに時間だけが流れる。
ル「ベルは強いからなんでも背負っちゃうけど・・・」
ベ「うん。」
ル「私達は家族みたいなものなんだから、
辛いことがあったら、話してね。時には頼ってもいいのよ。」
ベ「うん。」
ふたりとも黙ったまましばらく時間が流れる。
ふんわりとした空気に包まれる大いなる木のロビー。
ベ「ルナも・・・」
ル「え?」
ベ「辛いことがあったら、時々はみんなに頼ってもいいんじゃないかな。」
ル「わたしは・・・いつもみんなに助けられるばっかりで・・・」
ベ「みんなルナを頼りにしてるよ。」
ル「それはベルもね。頼りにされてるわ。」
ベ「うん。」
また静かな時間が流れる。
ベルの手当てが終わった。
ル「コロニーに・・・」
ベ「うん。」
ル「絶対帰ろうね。」
ベ「うん。」
いつもの笑顔は、いつものように眩しかった。
ベルは自分の中のコロニーへの思いをさらに固めた。
チャコ「おいおいちょっときてみいハワード。」
ハ「なんだよ。くだらないことなら・・・」
チ「ええからきてみい。」
ハ「何だよ。」
物陰に腰を落とすハワード。
ハ「なんだ、ベルとルナじゃないか。」
チ「な?あのふたり。ええ感じやないか。」
ハ「はあ?」
ベルとルナをこっそりと物陰から見る。
ハ「別に、普通じゃないか。」
チ「ったく、お前はわかってへんなあ。」
ハ「はあ?」
メ「お前たち、そんなところでなにをやっているんだ?」
チ「お、メノリもきてみい。」
メ「なんだ?一体?」
チ「な?あのふたり、ええ雰囲気やないか。」
メ「んん?」
物陰にメノリ、ハワード、チャコの顔が縦に3つ並ぶ。
優しく笑いあうふたり。
なんだか、優しい空気が感じられた。
メ「そうだな。
私の目からみてもベルは頼りになるし優しいし、ルナはしっかりしてて優しいし、
お似合いかもな。」
チ「せやろー。どっちかが告白でもしたら面白うなるのになあ。」
ハ「こ、こ、こ、告白?」
チ「なあメノリ。」
メ「うーむ。」
ハ「ベルのヤツは告白なんて無理だぜ。僕が保証する。」
メ「私も、ルナはわかってない感じがするな。
誰にでも優しいし。」
チ「ルナはそうやなあ。残念やなあ。」
ベ「あれ?」
ル「なあに?」
ベ「あそこ。」
ル「チャコとメノリとハワードじゃない。なにしてるのかしら。チャコー。」
チ「!あかんバレたで。」
ハ「おい、どうするんだよ?」
メ「どうするんだ?」
チ「何気なくでていくんや。ええか?ハワード。」
ハ「よし。」
メ「う、うむ。」
チ「ハ、ハロー。」
ル「なにしてたの?3人で。」
ハ「いやあ、ちょっと男と女の恋についてな。」
ル「ふ〜ん。」
チ(このどアホ。なんもごまかしてへんやないか。)
メ(そのまますぎるぞ。)
ハ(ええ?)
ル「そうねえ、もう世間は恋の季節ねえ。」
ベ「そうだね。」
ハ(見ろ。なんてことないじゃないか。)
メ(これはやっぱり・・・)
チ(駄目かもわからんなあ。)
ル「なあに?」
チ「いやあなんでもあらへん。そやなあ ええ季節になったなあ、はは。」
メ「ははは・・・」
ハ「あ、あは、あははははは・・・」
ル「?」
ベ「?」
顔を見合わせるふたり。
今日はフェアリーレイクのお月様も笑っていた。