その夜ふけ
カオルはハンターセンターの裏手にいた。
高い壁に阻まれていたが、ここから入れば、見張りもなく檻まではいけるはずだった。
昼間、向こう側にロープを結びつけ、そのロープに目立たない細い糸をつけこちら側に通しておいたが、それがない。
見つかったのだろうか。
「クソッ。」
立ち往生しているカオルに人影が近づく。
「カオル・・・」
大きな人影はベルだった。
「夜中にカオルがでていくのが見えたから・・・
ここは・・・」
「ハンターの拠点施設だ。」
「忍び込むつもりかい?」
「・・・」
「なにか、後ろ暗いことをするのなら・・・」
「そんなことはもうしない。」
「・・・うん。最近のカオルを見てればわかるよ。」
「ベル。」
「俺になにかできることがあるなら・・・」
壁の前で腕をあわせ腰を落とすベル。
カ(いくぞ。)
ベ(うん。)
カオルは助走をつけるとベルの手に体重をのせる。
ベルはそのカオルの体を真上に投げ上げる。
10メートルはある壁のてっぺんに片手をつくと、カオルは一回転をして、壁の向こうに消えていった。
「さすが、カオルだ。人間の業じゃないよ。」
暗い建物内だが、勝手知ったる場所だ。
迷うことなく目的の場所へとたどりつく。
檻の前ではジュウゾウとその仲間がカードゲームに興じていた。
「お、Bランクマスターさんじゃねえか。
こんな夜中になんのご用事だ?」
「今日は俺も警備を頼まれたんだ。」
「へえ、ソレはご苦労なこって。
だが、ココの人手は足りている。他を見回ってきな。」
「それなんだが、昼間の情報を持ってきた。」
「なんだ?」
「裏口のほうで、怪しい連中を見つけた。
アンタの獲物を狙っているようだが・・・」
「やっぱりな。
ヴァーンのやつか、顎鬚の3人組か・・・
ふてえ野郎共だ。追っ払ってきてやる。
いくぞ。野郎共。」
「おいーす。」
「お前は・・・」
「おれはここで見張ってるよ。」
「なにい?」
「鍵はアンタが持ってるんだろ。」
「・・・」
「ジュウゾウさん。はやくいかないと奴等が。」
「そうだな。じゃあ十分程頼むぜ。」
「ああ。」
勇み足で駆けていくジュウゾウとその手下。
「おい。」
檻の中の金塊男に声をかける。
「ここから逃げるぞ。」
「ア・・・ウ・・・」
「鍵は、ホラ。抜き取っておいた。」
「ウ・・・」
「そのままじゃ、目立ちすぎだこれをかけるんだ。」
カオルが取り出したのは黒色のスプレー缶。
「いたぞーあそこだー。」
ジュウ「へっへっへ、誰にも俺の宝物は渡さねえぜ。」
マントを羽織った大柄の男を追いかける。
ジュウ「一人か・・・アイツは囮かもしれねえ。正面入り口と東門にもいけ。」
「ヘイ。」
マントの男「カオルは、うまく逃げれたかな・・・」
「おい、おまえ・・・」
正面入り口の照明の明るい場所で、カオルは声をかけられた。
「今ジュウゾウさんが怪しい奴を追っているんだ。
お前はなにしてるんだ。」
「約束の情報を渡したから、もう用は済んだ。」
「ふ〜ん。」
「それとお礼ついでにこのサングラスを・・・」
「なんだ?」
「暗闇でも昼間のように、色んなものが見える最新式のものです。」
「おっ、俺にか?すまねえな。高えんじゃねえか。」
カオルから渡されたメガネをかける。
「おっほー、こりゃあいいや。色んなもんがクリアに見えるぜ。
今の俺らにうってつけだ。」
「じゃあ俺は・・・」
「おお、ありがとうなあー。」
堂々と正面入り口から、出て行くカオル。
「ア・・・ウ・・・」
「しっ、あのメガネは特殊なスプレーをかけたものだけ、見えなくなるんだ。」