雨を避けて、ふたりは公園の休憩所に隣り合って座っていた。
メノリは顔を隠すように、丸く膝を抱えて、ハワードの隣にチョコンと座っていた。
「あんなに笑ったのは久しぶりだ。」
「そんなに笑ってなかったのか。テレビではいつも笑ってたじゃないか。」
「あれは営業用のスマイルだ。
そういうことも徹底されていた。
はじめからわかっていたんだ。」
「なら最初から断れば良かったんだ。」
「みんなのことを考えるとそれが言えなかった。」
ハワードはあの時の自分とみんなを思い出した。
「馬鹿だな、お前は。」
しんしんと雨が降り続く。
メノリの心はいまだ晴れない。
「・・・ルナ達は許してくれるだろうか。」
「ほんとに馬鹿だな、お前は。
あの甘ちゃんたちが許してくれないわけがないだろう。
僕なんてコロニーの頃から何回足を引っ張ってきたと思ってるんだ。」
「やっとそれに気付いたか。」
「ああ、どの程度なら足を引っ張っても見逃してもらえるか、大体把握したぜ。」
「おまえというやつは・・・成長したのかしてないのか、良く分からないな。」
「成長したさ。なあブルキン。」
でっかい疑問符を頭に浮かべるブルキン。
「みろ、ブルキンも困ってる。」
「メノリもわかるか?」
「なんとなくそんな気がするだけだ。」
「なんだかブルキンのヤツ、さっきから如実に感情を表してやがるんだ。
どっかの猫型おせっかいロボットみたいにな。」
「お前如実なんて言葉今まで使ったことなかっただろう。どこで覚えたんだ?」
「見ろ。僕も成長してるだろう。」
さっきとは違う疑問符を浮かべるブルキン。
「つくもがみかもしれないな。」
「なんだそれ?」
「人間に大事にされてきた物には、その持ち主の心が宿るって話だ。
チャコとルナの関係もそんなものかもしれない。」
「そうかーんー、お前が賢くて、あの猫型中古ロボットがやたら生意気な理由が今判明したぞ、
ブルキン。」
小さなブリキ虫にほおずりをする。
「それにしてもさっきのはなんだ?」
「ああ、上手かっただろう。僕、役者としてやっていけるかもな。」
「最後の最後でとちったな。」
「・・・でもお前は笑ってくれたじゃないか。」
膝の上でくっくっと笑うメノリ。
「それじゃ俳優じゃなくてお笑い芸人だぞ。」
雨はいつの間にか上がっていた。
月明かりもうっすらと差し込む。
「さあて、家に帰って、みんなに謝りにいくか。今日は久しぶりにみんなで寝ようぜ。」
「しかしスケジュールが・・・」
「全く、お前は本当にノルマとかスケジュールが好きだな。」
「放っておけ、私の性分なんだよ。」
「スケジュールとサヴァイヴとコロニーとみんなとおまえ自身と、どれとどれがお前にとって大事なものなんだよ。」
月明かりがメノリの姿を照らし出す。
「お、スポットライトがあたってるぜ。」
立ち上がってメノリに手を差し出すハワード。
凍っていた心もいつの間にか溶けて自然にハワードの手をとるメノリ。
「そういえばカオルに言われたんだが、お前私に手紙を送っていたのか?」
「くそっ、カオルのヤツ。いつもは喋らないくせにあのおしゃべりめ。」
「忙しくて・・・気を配る暇もなかったんだ。」
「別に、気にするなよ。」
「どんな内容だったんだ?」
「気にしなくていいって。」
「今度探してみるからな。」
「ええっ!?名前も偽名だからわかるはずないさ。」
「お前の目立つ筆跡なら、すぐわかる。」
メノリの服にしがみつく。
「頼むからさがさないでくれー。ちょっと舞い上がってたんだよ〜。」
「断る、それなら最初から送るな。」
「だから偽名を使ったのに。畜生、カオルのヤツ、覚えてろよ。」
楽しみがひとつできた。
また前を向いて歩いていける。
「はやく帰ろうぜ。みんなきっと心配して待ってる。」
「ああ。」
月明かりを受けてハワードの後を追うさびかけたブルキンは金色に輝いて見えた。