「さあ、準決勝二試合目。

カオル選手とドッペルガー伯爵です。

ではさっそくはじめていただきましょう。」

カーン

細身のいかついおっさんはカオルの目の前で、ユラユラと蜃気楼のようにゆれたかと思うと次の瞬間にはカオルと同じ姿になっていた。

カ「これは・・・」

黒髪の少年が不気味に微笑む。

背中に寒気を感じながらも、カオルは側壁を蹴ってスピードをつけて顔面を殴りつける。

手応えを感じた瞬間、カオルの体が床に叩きつけられた。

カ「な・・・」

左頬にダメージを受けて、左手で自分の頬を押さえながら、殴ったはずの相手を見ると、

相手は無傷で不気味に微笑んでいた。

不気味な黒髪の少年は右手を前にかざす。

カ「?」

身構えるカオル。

右手の先から、空気のかたまりが真空波のようにカオルに向かって飛んでくる。

カ「くっ。」

両手を交差させて受け止めるカオル。

カ「俺の体とかまいたちか。

 それなら・・・」

 

 

ベ「カオル・・・試合は・・・」

カ「終わった。俺に変身するやつだったから、俺が決定的な攻撃をしないと向こうも決定的なダメージを与えられない。

 かわしてるうちに相手が自分の攻撃と姿を保つのとで疲れて降参したよ。

 神経を使いすぎる技だったんだな。

ベスト8の相手のほうがやっかいだったな。」

ベ「そうか。」

カ「さてと。後は俺が怪我を理由に降参するから、賞金を受け取って終わりだな。」

ベ「カオル。」

カ「ん?」

ベ「俺と本気で戦ってくれないか?」

カ「・・・なぜだ?俺たちがたたかっても意味がないだろう。

 怪我もしているし、疲労もしている。 

 明日の仕事に差し支えるだけだ。」

真剣な表情のベル。

カ「観客の期待なら・・・」

ベ「カオルはルナのことをどう思ってるの?」

カ「なんだ?いきなり。

・・・そうだな、おせっかいで人の心配ばかりして、明るくて、でも寂しがりやな奴だ。」

ベ「俺は、もし今日カオルに勝てたらルナに告白しようと思ってる。」

カ「・・・・・・」

ベ「俺はいつもルナに励まされてきたし、元気をわけてもらってきた。

 前向きになれたし、自分に自信を持つこともできた。

 でもルナはあんなに明るくて元気だけど、でも時々寂しそうに見えるから、

ずっと傍にいて支えてあげたいんだ。」

カ「・・・なら、本人にそう言えばいいじゃないか。

 俺に断る必要はない。俺に勝つ必要もない。

 踏み台にされるのはお断りだ。」

怒った口調で答えるカオル。

ベ「そうか・・・。

じゃあ棄権でいいんだね。」

カ「・・・・・・」

ベ「わかった。賞金だけ受け取ってくるよ。」

控え室をでていくベル。

 

カオルはひとりで考えていた。

(告白したいならすればいいじゃないか。

他人に断りをいれるなんてそんなのは勇気がない証拠だ。

見損なったぜ。)

ガンッ

ロッカーに鉄拳をいれる。

しばらく呆然とルナのことを考える。

(告白か・・・そんな事したこともないから、考えたこともなかったな・・・)

顔を上げて目を閉じる。

(・・・勇気がないのは俺のほうか・・・)

「くそっ。」

ロッカールームを飛び出すカオル。

「ベル。」

 

 

「さあ、いよいよ第13回サヴァイヴ格闘無差別級選手権決勝戦のはじまりです。

賞金200万サヴァイヴはどちらの手に。

スピードと正確さを武器に勝ち抜いてきたカオル選手と、

力と体力を要に勝ち抜いてきたベル選手。

なんとふたりは遠い星からやってきた仲間同士であるということです。

やはり出生の星によって生まれ持った強さが決まってしまうのでしょうか。」

「いや、やはりハングリーさではないでしょうか。」

「ハングリーですか。」

「どれだけ手に入れたいものがあるか。

今日の場合は賞金と名誉ですが、自分はなにが欲しくてなにが必要か。

それが本当に自分に必要なものなら、人はその為に努力することを厭いませんからね。」

「なるほど。あっーといよいよ両選手がでてまいりました。

気合は十分のようです。」

コーナーで精神を統一するカオル。

(お前の気持ちは教えてもらった。

だが俺も俺の気持ちがある。)

気合を入れる対角コーナーのベルの大きな背中を見る。

いつも明るくて元気な優しい女の子の顔が浮かぶ。

(・・・俺も絶対に負けるわけにはいかない。)

「さあ、両者向かい合い試合開始です。

本当に仲間・・・なんでしょうか。

お互い気合充分で向かい合っております。」

カーン

「果たして、軍杯はどちらにあがるのか?」







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