船越のJR高架化


はじめに

下の写真は当地の北に仰ぐ岩滝山の中腹から南に広がる視野角90度の眺望で、近景の左右(東西)一直線に走るJR山陽本線が地区内の南北往来を妨げる存在です。手前少し左寄りに船越小学校。


経過

船越地区のJR高架化は、1975年に広島市と合併する以前からの地区住民の悲願でした。
これが漸く動き出したのは、1998年、都市計画道路と共に住民説明会で高架化の計画が発表された時です。
ついで、2002年には事業化の認可を受け、2015年ごろの完成を目標として、具体化に踏み出しました。
計画の全体は、「広島市東部地区連続立体交差事業」と題され、向洋駅付近を含む府中町域から青崎・船越を経て海田市駅付近を含む海田町域まで、高架の全長が6.3kmとなるものです。
ところが、国および広島県、広島市の財政難のため、予算化が遅れたまま、2013年8月になって突然、高架は府中・青崎地区までとし船越・海田地区の高架を取りやめる案を県・市が発表しました。
これに猛反発した船越・海田の住民は署名運動などで「当初案」どおりの推進を要求してきました。

このような経過の後、2015年6月に提案された「見直し案」は、海田地区については「当初案」よりも高架の長さを半減して復活するもの、船越地区については高架化せずに3箇所の踏切のうち2箇所を閉鎖してアンダーパスと跨線橋で代替するもので、船越住民はさらに強く反発しました。
2015年11月に4回に亘って住民説明会が開催されて多くの疑問・問題点が指摘されました。12月初旬には船越の高架化を求める請願が市議会で継続審議とされ、また、再度の署名活動により2万8千筆の署名を得て1月22日に市に提出されました。
2016年1月29日に再度の住民説明会が行われ、住民およそ250人が出席。「見直し案」には基本的な変更はなく、3箇所に歩行者用の立体横断設備の追加が提案されたのみ。「見直し案」に反発する意見が多くの住民から出され、市は住民代表と協議する場を設けることを約束しています。
2月15日に開会された広島市議会に提案された2016年度予算案には「見直し案」を前提にした「アンダーパスなどの設計費」が盛り込まれ、3月25日の市議会本会議で予算案は原案どおり承認されましたが、「船越地区住民に対し時間をかけて充分に説明し理解を得ること」を求める決議が付けられました。

「見直し案」の跨線橋とアンダーパスによって利便性・安全性が向上すると市は強弁していましたが、地元住民の立場に立って評価すれば利便性・安全性は向上せずにむしろ不便になるものでした。
また、船越高架化のためには8000㎡の追加用地が必要になりこれに50億円を要する、と市は説明していましたが、これも地元住民に高架化を諦めさせるためのウソでした。

6月29日から7月8日まで公民館で「オープンハウス」と名づけて広く住民の意見・質問を受ける場が広島市により設けられました。
7月17日には決起集会が開催され約400人の住民が参加。「船越も高架にせよ」のスローガンを掲げてデモ行進に移り、小学校正門前をスタートして反時計周りに、県道151号線、西古谷公園、入川交差点、県道164号線から区民文化センター東まで、地区内を一巡して住民の強い意志を表明しています。
広島市のホームページに掲載された先のオープンハウスでの住民の意見集計結果によると、船越地区住民の8割が反対、残りはごく少数の容認およびその他の意見でした。

6,7月の「オープンハウス」で展示され住民に配布された資料により、市の期待に反し、跨線橋とアンダーパスで利便性・安全性は向上せず、船越高架化のための8000㎡の追加用地はウソであることも住民は再確認しました。

市が約束した住民代表との協議は、漸く、8月30日と9月16日に行われました。双方の立場・主張を再確認しただけで進展はなく、「見直し案」を前提にした協議は受け入れられないと住民側は宣言して実質的に流会。

10月2日に二回目の決起集会が開催され、前回と同じコースで地区内を一順するデモ行進に移りました。

2017年1月26日、住民代表が高架化の要望書を市に提出しました。
1月27日付の新聞・テレビの報道によると、市は、「見直し案」を保留し「高架化復活」の検討をすることになりました。2月6日に発表された新年度予算案には、検討のための経費3250万円が計上されました。

2月13日から始まった市議会定例会の中で市は、検討の方向として、「見直し案」の欠陥を指摘する地区住民の意見を認めてこれに対応することおよび海田町・府中町の事業推進に大きく影響を及ぼさないこと(この時点で、的場川で高架を下ろすことが予想された。)を明言しました。関連経費3250万円のうち、2000万円が鉄道・街路の検討、1250万円が新たな都市計画申請資料のためと説明されています。
3月22日、市議会で予算案は承認されました。
6月26日の市議会で市長から、再検討の方向として一部高架化の検討もせざるを得ない旨の答弁がありました。
9月6日の市議会・都市活性化対策特別委員会で、市域内での(再)見直しを前提とし、船越踏切と引地踏切は高架化し、的場川西踏切は閉鎖して高架下へ代替路を設ける方向で検討している旨、担当局長から説明されました。

2018年1月18日、県知事と市長のトップ会談が行われ、市から再検討の結果(「見直し修正案」)が伝えられました。的場川付近で高架を下ろし事業工程全体を前後2期に分け、船越・引地の2踏切を高架化、的場川西踏切を閉鎖して東へ約170mの高架下へ代替路(都市計画道路・船越中央線の一部になる)を設け(ここまでの内容は2017年2月に予想されたものと同じで、新たに加えて)、呉上りの乗り越し構造は海田市駅へ移して駅舎を3階建てにして呉線高架を延ばし海田市第一踏切も高架にするというもの。高架の全長5km。「見直し案」に比べ、県域55億円、市域90億円の経費増。
2月7日、県・市・2町の4者トップ会談が行われ、この「見直し修正案」に対する基本合意が得られました。
3月2日と3日に住民説明会が開かれ、地元住民からは、これまでの経過に関する不信感や的場川西踏切で高架を下ろすことに対する不満も表明されましたが、この案を容認し早期推進を求める意見も多く出ました。的場川西踏切を閉鎖した後の歩行者通路は約80m西で高架下を通る。
3月4日、連合町内会役員の意見集約が諮られ、「見直し修正案」を受け入れ事業の早期推進を求めることになり、3月5日、その旨市に通達されました。

「見直し修正案」に関する市の説明の中で、呉線上りの乗越し構造を船越地区に設けると、海田市駅に設ける場合に比べ、700㎡の追加用地、総事業費15億円増、呉線上りの線路勾配に無理を生ずる、などの理由を挙げ、駅舎を3階建てにしています。
これは、先の「見直し案」で船越高架には8000㎡の追加用地が必要と言ってきたウソを隠すための新たなウソであり、呉線上りの乗越し構造を船越地区に設けても、追加用地は不要であり線路勾配にも無理はなく総事業費も減ります。

2018年度中に「見直し修正案」を基本とした都市計画の変更を経て新たな事業認可申請が進められ、認可後の工事期間は全体で17年間。

総括

元来、地元の状況を正しく理解していれば欠陥のある「見直し案」の発想はあり得なかったし、今回の「見直し修正案」よりもさらに合理的な「案」が2015年6月の時点で出来ていたはずです。





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