私、どうしてあんなことを言っちゃったんだろう。
「いい色だな、それ」
バイトの帰り道。近くのバス停まで一緒に歩いていた真咲先輩が、私のマフラーを見てそう言った。
新年を過ぎて本格的な冬が到来したようで、空気が身を切るように冷たくなったように感じる。吐く息の白さも濃くなっているように思う。学校の制服にはコート着用が認められてるけど、首筋の寒さはマフラーでもないと防げない。
女子高校生が身に着けるには、少し渋すぎるかなと思うようなブルーグレーに白い雪の結晶をデザインしたマフラー。
「へへ、そうですか? 実は手編みなんです」
「へぇ。お前が作ったの?」
「そうです」
「俺は好きだな、そういうの。俺もマフラー欲しいなぁ」
先輩は寒そうに首をすくめた。
「じゃあ、私プレゼントしましょうか?」
「へ?」
私の言葉に先輩は驚いたように目を丸くした。
そんなにびっくりされるとは思ってもみなかったから、私は口ごもってしまった。
「あ、あのっ、別に深い意味はないんですけど・・・」
自分でそう言ってから、言葉の持つ意味に気が付く。
かぁっと顔が赤くなるのが分かる。それをごまかしたくて、矢継ぎ早に話を続けた。
「や・・・そ、そう! 誰かからプレゼントされるんじゃないんですか?」
誰か、私の知らない誰かに・・・・。
そう思うと、何故だか胸の奥が鈍く痛んだ。
無理やり笑みを作って先輩を見上げると、真咲先輩は戸惑ったように私を見ていた。
やっぱり、私、変だよね。
「俺は、お前の作ったマフラー欲しいな」
「え? でも」
「可愛い妹分から、手作りのマフラーを貰うってのは、なかなかないだろ?」
そう言って笑った真咲先輩の顔が、心なしか赤いような気がした。
「・・・・・・」
「あ、いや、お前が忙しいとかならいいんだ」
私の沈黙を真咲先輩は何か勘違いしたらしく、慌てたようにそう続けた。
「そんなことないです! 先輩にはいろいろお世話になってるし、日ごろの感謝をこめてプレゼントさせてください」
そうだよね。いつもなにかと気にかけてくれるし。
バイトに入ったばかりのころから、ずっと面倒見てもらってるし。
お礼、だよね。
「それに、真咲先輩の誕生日って今月でしたよね」
「おう、よく覚えてるな」
「当たり前じゃないですか。じゃあ、誕生日プレゼントに間に合わせます」
「そりゃあ嬉しいけど、無理するなよ」
ぐっとこぶしを握って決意した私に、真咲先輩は苦笑しながら私の頭をポンポンと手をのせた。
「大丈夫ですよ」
にっこり笑って、私はそう言った。
大丈夫のはずだったのに・・・・・。
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