真咲先輩にマフラーをあげる約束をした。
デザインや色は私にまかせると真咲先輩は言ってくれたけど、家族以外の男の人に何かを編むなんて初めてで、私は
頭を抱えていた。
「どうしよう・・・」
学校の昼休み、机の上に編み物の本を開いたままうんうんうなっている私を、クラスのみんなが不思議そうに見ていた
。
「唐沢さん、体調でも悪いの?」
そう声をかけてきたのは、クラスメイトの渡会あかねさん。
入学当初からものすごい美少女だってみんなの注目を集めてた人で、私なんて同じ高校入学組みじゃなかったら仲
良くなる機会なんてなかったんじゃないかって思ってる。でも人形のような外見を大きく裏切って、結構イケイケな武闘派
なのは一部の人だけが知ってること。
だから竜子さんと仲いいのかなぁ・・・。
もちろん可愛いものも大好きで、二人でよく買い物に出かけたりもしてる。
「そうだ! 渡会さん、お願い! 相談に乗って」
私は椅子に座ったままがしっと手をつかんで、うるうると机の前に立つ彼女を見上げた。
「はい?」
私の突然の行動に、周りのみんながぎょっとしてるなかで、渡会さんだけは動じることなくきょとんと首をかしげた。ゆるく
カールした栗色の髪が肩の辺りでゆれて、すごく可愛い。
「私でいいの?」
「うん。渡会さんじゃないと駄目なの」
だって、先輩にプレゼントするって思うだけで、こんなに頭のなかがぐるぐるするのに。ひとりじゃ、きっとなんにも決められない。
たぶん今の私はすごく情けない顔してるんだと思う。
渡会さんは、私の顔を見てクスリと笑った。嫌味な笑い方じゃなくて、むしろ楽しそうな感じ。
ううっ・・・私ってやっぱり変。
「いいよ。相談ってなぁに?」
そう言って私の前の席に座ると、彼女は私の顔を覗き込んだ。
「えっと、渡会さんて手芸部よね」
「うん」
「マフラーを編みたいんだけど、色とかデザインとか相談に乗って欲しいの」
私は机の上に広げてた本を彼女に見せた。手袋やマフラーなんかの小物の編み方が載っている本。
「ああ、この本いいよね。マフラーの種類もいろいろあるし」
渡会さんもこの本を見たことがあったみたいで、ページをめくりながら言った。
「で、どんな人にあげるの? 同級生? でも唐沢さんて、同級生には興味無かったよね」
「え? ええっ!!」
びっくりして口をパクパクさせる私に、渡会さんはふっとため息をついた。
「あのねぇ、自分のや家族のを編むのにそんなに必死な顔するはずないでしょ」
何を今更と言った感じで渡会さんは指をのばすと、私の眉間をつついた。
「眉間にしわ寄ってるじゃない」
「ううっ・・・」
私って、もしかしなくても分かり易すぎるの?
眉間のしわを両手で伸ばしながら、上目遣いで渡会さんに目をやると、彼女は可愛く笑いながら爆弾を落とした。
「でも、唐沢さんに好きな人がいるなんて知らなかったな」
つづく