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Our Way To Love 3


「でも、唐沢さんに好きな人がいるなんて知らなかったな」
 渡会さんの声が、頭の中で繰り返される。
 はい?
 好きな人?
 私に?
 思考が一瞬止まった。
 そして慌てて、私はその言葉を目の前から消すようにバタバタと両手を振った。
「ちっ、違うの! そういう人じゃないの!」
「違うの?」
「違います!」
 そういうやり取りを何度か繰り返した後、残念といった顔で渡会さんはしぶしぶ納得してくれた。
 ・・・・・・・多分。
「じゃあ、誰?」
「バイト先の先輩で、誕生日が近いから、日ごろの感謝の気持ちということで」
「ああ、はね学の先輩っていう人ね。ふぅん、誕生日に手編み?」
「だから! 私にとってはお兄ちゃんみたいな人で」
「はいはい」
 むきになる私に、渡会さんは動物か何かをなだめるみたいに肩を叩いた。
 何か言わなくちゃと私が口を開きかけたとき、昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
「じゃあ、続きは放課後でいい? クラブは休みだよね?」
「うん。後でね」
 椅子から立ち上がりながら、渡会さんが確認してきた。
 今日の放課後はクラブの運営委員会があるとかで、運動部も文化部も活動はお休み。
 来年度の予算についての話があるって、ラクロス部の先輩が言っていた。


 放課後、いつもより人の多い帰り道。
 手芸部御用達のお店で、渡会さんとあーでもないこーでもないと言いながら毛糸を選ぶ。
 真咲先輩にはどんな色が似合うんだろう。
 黒・・・は落ち着きすぎ?
 紺色は、ありきたりだし。
 先輩のイメージって何色なんだろう。
「ほらほら、毛糸にぎりしめたままトリップしないの」
「なっ!」
 渡会さんはそう言いながら私の手から毛糸をとると、ぽんぽんと棚に戻す。
「うんうんうなってると、お店の迷惑」
「私、うなってた?」
 こっくりと肯く渡会さん。
 そういえば気が付けば私の周りに人がいない。さっきまでは同じように毛糸を選んでる人が何人かいたハズなのに。ちょっと離れた場所から、ちらちらとこちらを伺ってる店員さんの姿が目に入る。
 私ってば、挙動不審人物?
「はいはい、ヘコんでないで。時間もないことだし、サクっと決めてこう」
 男らしいです、渡会さん。
 そのさっぱりした性格、羨ましいです。
「そうねぇ、その先輩の好きな色とか知らないの?」
「好きな色・・・・・うーん・・・あ、そうだ。オレンジ色が好きって言ってた」
「オレンジねぇ」
 渡会さんはそうつぶやきながら、色とりどりの毛糸が並ぶ棚に目を走らせる。
 棚の上から下、右から左へと視線が移動してゆく。そして、2種類の色の毛糸を私の前に差し出した。
 どちらもオレンジ色だけど、ひとつはビビットな目をひくオレンジ、もうひとつは少しだけ灰色を混ぜたように落ち着いた感じのオレンジ。
「どっちがイメージ?」
 私は迷わず明るいオレンジを選ぶ。
 爽やかで元気の出る色だもの。
「そっか。じゃあ、これにする?」
「あ、でも、男の人がするには鮮やかすぎない?」
「じゃあ、想像してみて? 先輩がこの色をつけてるの」
 そう言われて、毛糸を見つめたまま真咲先輩の姿を思い浮かべる。
 あれ? あんまり違和感ない・・・・カナ?
「大丈夫みたいね。でもこの色だけだと派手かもしれないから、こっちの糸と合わせて2本取りで編んだらいいかもね」
 私の表情を見て、渡会さんがアドバイスをくれた。
「そっか、組み合わせればいいんだ」
「そうそう。少し暗い色だから、彩度も落ちると思うし」
「ありがとう。これにする」
 一応、もしもの時のために備えて毛糸を多めに手に取った。
「2玉もあれば十分じゃない?」
 4玉づつ買おうとする私に、渡会さんは怪訝そうな顔をする。
「ううっ、そうなんだけど。一応、ね」
 とんでもない失敗をしないように。
「まぁ、余分があれば万が一にも備えられるけどね」
 渡会さんも身に覚えがあるようで、私の理由にうなづいてくれた。
「このお礼は必ずするね」
「楽しみにしてる。取りあえずは誕生日に間に合うように頑張ってね」

 先輩の誕生日まであと5日。

 頑張れ、私!

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