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Our Way To Love 5

 終了のチャイムが学校中に響き渡る。
 HRが終わると、教室内にはリラックスした空気に包まれる。
 鞄を抱えて部活動に向かう人や、そのまま教室で友達と談笑している人達。
 そんな姿を眺めつつ、大きく息を吐いて椅子から立ち上がった。机の横から鞄と紙袋を手に取ると、その重さを確かめるようにぐっと握る手に力をこめる。
「決闘にでも行くような顔ね」
 渡会さんがひょいっと顔を覗かせた。
「ううっ、言わないで。ってゆーか、勝負だって渡会さんが言ったんじゃない」
「また眉間にシワが寄ってる」
 そう言いながら渡会さんは爪先立ちになって、指先を私の眉間に伸ばした。
  「ほら、若王子先生も応援してくれてるし」
 寝不足によるサボタージュを「将来のかかった大事な勝負がある」という理由であっさりと容認した担任は、HR終了後、わざわざ私の席までやってきて、
「唐沢さん、頑張ってきてくださいね」
 と、励ましのエールをおくったのだった。
「若ちゃん先生ってよくわかんない」
 大きくため息をつくと、渡会さんは笑いながら教室の後ろへと移動した。
「いい先生だと思うけど。外、結構寒いわよ。コート着て、・・・・・マフラーは?」
 ロッカーから渡会さんに言われるままコートを着て、いつものマフラーを取ろうとして手を止めた。
「あれ? 今朝も・・・・・あっ!」
 徹夜明けでぼんやりとしてるうちに、いつもよりも家を出る時間が遅くなって、慌てて家を飛び出したことを思い出した。そういえばマフラーしてなかった、かも。
「今朝も、ずいぶん寒かったと思うけど?」
 ちょっと呆れたような渡会さんの視線が刺さる。ううっ・・・。
「さてと、私はこれから部に出るけど、唐沢さんは急がなくて大丈夫?」
「今から行くとちょうどいいかな。今日は先輩、早上がりなの」
「そう。じゃぁ、頑張ってね」
「うん。また明日」
 クラブハウスに向かう渡会さんと下駄箱のところで別れると、ひとつ息を吐いて正門へと歩き始めた。


 太陽があっという間に地平線のかなたに姿を消すと、夜のとばりが辺りをつつむ。
 クリスマスのイルミネーションのような派手さは無いけど、青と白のLEDで飾り付けられた街路樹がキラキラと輝く。
 街灯に照らされた道を歩きながら、自分の吐く息の白さに首をすくめた。
 やっぱり、首筋が寒いー。
 首を縮めると姿勢が悪くなるので、出来るだけ真っ直ぐに前を見て歩くように心がける。
「ドキドキしてきちゃった」
 あと少しで店が見えてくるというところで足がピタリと止まった。
 腕時計を見ると真咲先輩があがる時間まであと少し。どうしよう、このまま外で待ってようかな。
 寒いけど、コレを渡すだけだし。
 そんな風に迷っている私に声をかけてきた人がいた。
「あら、唐沢さん?」
 びっくりして顔をあげると、店の前で箒を片手に持った有沢さんがこちらを見ていた。
「あ、お疲れ様です」
 慌ててペコリと頭を下げる。
「どうしたの? 今日はシフト入ってないでしょう」
 そのままぼんやり立ってるのもおかしいと思って、有沢さんの近くに歩み寄る。
「はい。えっと、その、用があって・・・」
 なんて説明したらいいのか分からなくて、最後の方は口の中でモゴモゴと呟いていると、
「ああ、真咲くんね?」
 あっさりとそう言われて、私は思わず一歩あとずさってしまった。
「な、な、・・・・」
 通り過ぎる車のライトに、有沢さんのメガネがきらりと光る。もしかして、見透かされてる?
「だって今日は真咲くん誕生日でしょ? 今日の休憩のおやつは、彼の為に店長がケーキ用意してたし」
 そういえば、先月の私の誕生日にも店長がケーキ差し入れてくれたっけ。
「外で待ってるつもりだったの? もう少ししたら真咲くんもあがりだし、店の中にいなさい」
 そう言いながら有沢さんは有無を言わせず私を店の中に押し込んだ。


 店の中にはちょうどお客さんもいなくて、クラッシク音楽のヴァイオリンの音が響いていた。
 春のような暖かな空気にふんわりと花の香りが溢れている。寒さと緊張で強張っていた体から、余計な力が抜けてゆく。
 バイトの内容は結構キツイけど、この空間で仕事をするのがとても好きだった。
 色とりどりの花を眺めているとバックヤードから、真咲先輩の声が響いた。
「有沢? 俺、もう上がるけど」
 そんな声とともに真咲先輩が姿を現した。有沢さんを探して店内をぐるりと見渡し、その途中で私の姿を見つけて目を丸くした。
「なんだ、要。来てたのか」
「あ、お疲れ様です。有沢さんは、外の鉢植えを見てますけど。私、呼んできましょうか?」
「いや、いい。お前、ほっぺた赤いし」
 そういいながら真咲先輩は、私の頬をむにっとつまんだ。
「!」
 そのまま私の前を通り過ぎてゆく先輩を目で追いつつ、その指の触れた頬を片手で押さえていた。
 扉から半分だけ身体を出して有沢さんと何か話している姿をぼんやりと眺めていたはずだったのに、気が付くといつの間にか先輩の心配そうな顔が私を覗き込んでいる。
「ぅわっ!!! び、びっくりした」
 えっ、なに? 私、もしかしてフリーズしてた!?
「おわっ。びっくりしたのはこっちだ。ぼやーっとしてるからどうしたのかと思ったら、急に大きな声出すな」
「すみません」
 慌てて頭を下げる。
「ぼんやりしてたつもりはなかったんですけど・・・」
 うわぁ、恥ずかしい・・・・。顔に体中の熱が一気に集中してる気がする。
「まぁ、いいけどさ。それよりお前、俺に用事だって?」
「え?」
「いや、有沢がそう言ってたから。違ったか?」
「あ、あの、はい。そうです」
 突然の話題転換に頭がついていけない。なんでこんなに言葉に詰まってるんだろう、私。
 いつもならこんなことないのに。
 やっぱり「将来を左右する大勝負」とか、妙なプレッシャーをかけられたから?
「えーと、そのまま待っててくれるか? 俺、もう上がりだし」
 その言葉に頷くと、悪いなって言いながら店の奥へと入っていった。

つづく

  

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