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広島県手話通訳士協会
この原稿は2009年9月広島県手話通訳派遣委員会『派遣委ニュースNO37』に掲載されたものです。
     
  政見放送の手話通訳を担当して

衆議院が解散して、選挙に入るまでの期間は相当あったはずであり、準備もできたはずだ。しかし、日々の仕事の追われる毎日で、政見放送の手話通訳のことなどすっかり忘れていた。

 7月終わりごろに自宅のパソコンに「政見放送担当可能票」が届いた。「士の中で公務員を除くと、あなたには受けてもらわないと・・・」という文面を見ると、どうも断れない。ちょうどお盆休みと重なる日で都合の良い日に○をつけて返信した。依頼があるかどうかわからないし・・・と思っていたら、8月10日事務局から「14日(日本共産党)、16日(国民新党)どちらかお願い!」と依頼が入ってきた。「他には誰もいないの〜?」と心の中で必死に叫びつつ、「一晩考えさせてください。」とだけ返事をした。結局翌日に「16日まで胃がもたないから14日の早いほうにさせてください」とお願いした。

 11日早速原稿が自宅にFAXで届く。最初「これだけ?」と、短い原稿を手にし逆に不安になった。時間にしたら3分くらいの原稿・・・。収録2日前の12日には最終原稿が届き、いくらかことばが修正されていたが、やはり原稿の長さは変わっていない。


 事務局から「事前勉強会をセッティングするから」と言われ、本当にありがたかった。とにかく一人で悶々とするより、通訳仲間の顔を見て、何かしゃべることで緊張を逸らしたい・・・。勉強会では、自宅で一晩練習した手話表現を見てもらった。参加してくれたろう者や手話通訳の仲間たちから「あの表現はわかりにくい、こう変えたらよいのでは」などたくさんアドバイスをいただくことができた。この日に、収録方法は単独方式(着席した一人について政見の録画を行う方式。他には対談方式、複数方式、組み合わせ方式がある。)だと初めて知り、原稿はこれだけなのだろう・・・と思ったが、それでもまだ半信半疑で、現場に行ってみないとわからないね・・・ということだった。

 さて、8月14日収録当日。服装は紺のスーツを新調。NHKにはサブ通訳者ともう一人見学者(16日の収録のサブ通訳者)と待ち合わせをして、NHK担当者の案内で控え室に入った。そこには、すでに候補者(比例代表)と関係者が数名いた。挨拶を済ませ、しばらくすると、NHK担当者が来ていきなり候補者に説明をし始めた。私たちも聞いておかねば・・・。

@     収録は2回まで。1回目を取り終えてOKであれば終了。

A     1回目を撮り終えてダメだと判断したら、2回目を撮る。あとで、1回目と2回目を比べてどちらかに決めることはできない。2回目を撮れば2回目のものが放送されることになる。ことばが途中切れても3回目はできない。

B     2分(衆議院比例代表の政見放送は全体で9分、今回担当した政党が中央で作成したものが7分だったので、中国ブロック選出の放送は2分とのこと)の時間でおさめてください。2分で終わっても30秒は静止しておいてください。(通訳者も)

 今回は候補者と通訳者が同じ控え室だということもあり(あとで16日の様子を聞くと、通訳者と候補者の控え室が別々だったとか・・)、少し雑談ができたおかげで、気分が楽になった。そして通訳者として肝心な、ことばの意味の確認や手話表現の確認もできた。

 いよいよ収録。スタジオ入り。今までの広報番組のテレビ収録では、小道具などが雑然と置かれた狭いスタジオだったが、政見放送の収録スタジオは50人〜70人くらいが入ることのできる広いスタジオ!!このスタジオの広さに圧倒され、一段と緊張感がアップ。NHK担当者から、@立ち位置(すでに黄色のビニールテープがTの字型に床に貼られており、手話と書いてあった。)テープの貼られているところに足のつま先を置く。Aイヤホンの装着。この2つの指示があっただけだった。あくまでも収録は候補者がメインなので、広報番組の収録のようにカメラ担当者やディレクターは手話通訳者に目を向けているわけではない・・そういった雰囲気は感じた。

 それと、これまた初めて気づいたことだったが、カメラは通訳者の真正面ではなく、斜め左。「あれ?目線はどうしたら?」すかさずカメラのそばにいたサブ通訳者に手話で聞くと、サブ通訳者がカメラ担当者に尋ね、「カメラを見てね」と手話で返してくれたのはありがたかった。本番前にもう一人の見学者も手話で「前髪を直して」と。「こう?」「OK」のサイン。こんな他愛もないやりとりで緊張感が少しほぐれた。

 収録開始。1回目は候補者が原稿と違うことを話してしまい、私も通訳しながら「あれ?」と思った。案の定、候補者から撮りなおしを言われ、2回目収録することに。私は合間に手や足を動かし、緊張感をほぐそうとした。2回目の候補者のしゃべりは原稿どおり。しかし、通訳者の私は最初のほうで余計な手話が入ってしまった。あとで、画面確認すると、やっぱり不要な手話が出ていた。しかも、最後の礼は候補者より先に頭を上げていた。しかし、もう撮りなおしはない・・・。
 今回政見放送の手話通訳を初めて担当してみて、事前学習会を開いてくださった事務局、勉強会に参加してくださったろう者や通訳の仲間たち、収録当日のサブ通訳者、見学者の方には本当に感謝している。改めて、通訳に立っている自分は一人でやっているのではなく、多くの人に支えられてやっているのだということを実感した。

 4月下旬に東京で行われた政見放送手話通訳士研修会に参加し、実際今回衆議院選挙の政見放送の手話通訳を担当してみて、
 @「聴覚障害者にフィットする手話表現」とはどういうことなのか。
 A「投票者間の平等」だけでなく、「候補者間、政党間の平等」も保つ必要がある。このことがどういう意味を持つのか、私たち手話通訳士がどういう理念をもって臨まなければならないのか。 改めて、今まで持ち帰った資料を読み返し確認したいと思った。

「政見放送手話通訳理論」「政見放送手話通訳実践技術」というものがあるが、これからの学習会の中でもぜひ取り入れてほしいと思う。またこれは私自身の課題であるが、もっと政治にも関心を持ち、「国民はみな平等、公平」という理論をもつ日本国憲法について改めて学ばなければと思った。

                                    沖本 浩美

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