漢方の養命庵 中野薬局


主要な漢方処方

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ま    

用語解説

処方名 麻黄湯
(まおうとう)
構成方剤 麻黄 杏仁 甘草 桂枝
方剤の意味 麻杏甘石湯という方剤があるが、その中の石膏を桂枝に代えたものと考えればよい。
麻黄はエフェドリンの原植物で、強い発汗薬でもあり、鎮咳薬でもある。
杏仁も、昔は杏仁水として西洋医学でも用いられたように、鎮咳・祛痰薬である。
桂枝は軽い発汗薬であるが、麻黄と桂枝が組み合わさると、麻黄・桂枝単独で用いた時よりも発汗作用が強く現れる
すなわち相乗効果が出る。
甘草は方剤全体の作用を緩和し、副作用を除く目的で加えられている。

構成生薬は、甘草が平性なのを除いて、すべて温性であり、温めて発汗させ、病を駆逐する方剤である。
麻黄・杏仁とも瀉性薬であり、ことに麻黄は強い発汗薬であるから、汗の出やすい虚弱体質者には用いられない。
適応 カゼや熱性疾患の初期、発汗剤として用いる。
ただし、汗の出やすい体質者には用いてはならない。
また発熱のある場合には必ず悪寒を伴うことを条件とする。
咳にはかなり良く効くが、鼻づまりには直接的な作用はない。
しかし発散作用の結果として乳児の鼻づまりにしばしば奏効するようである。
喘息に用いてよい場合もあるが、喘息にはむしろ小青竜湯が優れている。
関節痛や筋肉痛(関節リウマチ、関節リウマチの初期)にも発散剤として用いて効果が期待されるが、汗の出やすい体質でないこと、はっきりとした熱証でないことを条件とする。

処方名 麻黄附子細心湯
(まおうぶしさいしんとう)
構成方剤 麻黄 附子 細辛
方剤の意味 麻黄が主薬であるから、麻黄湯と同じく辛温発表剤の一つであることに違いはないが、附子という熱性薬が入っていること、それに細辛も温性の強い薬物であることから、著しい寒証向きの方剤ということが分かる。
すなわち、たとえ熱が出ても熱感はほとんどまたはまったく訴えず、悪寒のみ著しい場合に用いるべき方剤である。
麻黄に鎮咳作用、細辛に鎮痛・麻水・平喘作用、附子に鎮痛作用があるから、咳や咽痛に効くのみならず、3生薬とも燥性薬であるところから、小青竜湯と同様、うすい鼻水を治すに適する。
適応 熱寒がほとんどまたは全くなく、悪寒のみ著しいカゼや熱性疾患の初期、ことにのどのチクチクするような場合。
老人や虚弱者で、全身倦怠があり、脈は表証であるにもかかわらず沈細であることを特色とする。

処方名 麻杏甘石湯
(まきょうかんせきとう)
構成方剤 麻黄 杏仁 甘草 石膏
方剤の意味 麻黄湯の桂枝の代わりに石膏が入ったものと見ることが出来る。
麻黄はエフェドリンの原植物で、強い発汗薬であるとともに鎮咳薬である。
杏仁も鎮咳・祛痰薬である。
石膏は強い寒性薬で、これが方剤中に入ると他の生薬が温性であっても方剤は全体として寒性方剤となる。
のみならず、麻黄と石膏が組み合わさると、麻黄の発汗作用が抑えられて、むしろ止汗的に作用する。
甘草は方剤全体の作用を緩和し、副作用を除く目的で加えられている。

麻黄・杏仁・石膏はともに瀉性薬であり、かつ散性薬であるから、表実証用の方剤であり、石膏があるので、表熱実証用の方剤ということが出来る。
従って、本来は汗の出やすい虚証体質者には不向きな方剤であるが、実証体質者でも運動をしたり喘息発作時は汗が出るわけで、このような体質者の喘息発作に主として用いられる。
適応 気管支喘息の発作に主として用いられる。
ただし、顔色が良く、口渇があることを原則とし、顔色が悪い、虚弱体質者には不適当である
発作に頓服として用いてもよいが、ある程度長期(1~2ヶ月)にわたって連用してもよい。

処方名 麻杏薏甘湯
(まきょうよくかんとう)
構成方剤 麻黄 杏仁 甘草 薏苡仁
方剤の意味 麻黄湯の桂枝の代わり(麻杏甘石湯の石膏の代わりといってもよい)に薏苡仁が入ったものである。
薏苡仁は湿をとる薬物、またイボを除く薬物で、麻黄・杏仁とともに発散薬である。
すなわち本方剤は湿を除く発散薬で、麻黄が入っているから汗かきには不適当である。
熱証・寒証は特に考慮する必要はない。
芍薬が入っていないので、鎮痛作用はあまり強くない。
適応 ①関節リウマチ、関節リウマチでからだのあちこちが痛むもの(ただし、軽い痛み)
②汗疱状白癬の初期
③イボ(ただし長く連用するには薏苡仁のみの方が安全である)

処方名 麻子仁丸
(ましにんがん)
構成方剤 大黄 枳実 厚朴 麻子仁 杏仁 芍薬
方剤の意味 この方剤は便秘を対象に作られた方剤であるが、特に燥証による便秘を対象につくられている。
便秘は、寒証より熱証、虚証より実証、湿証より燥証、降証より升証の場合に起こりやすいものであるが、虚証の場合の便秘は、燥証による便秘(体液不足による便秘)であることが多い。
いわゆる燥屎(そうし)というのがそれである。
したがって虚証者の便秘には潤性で降性の薬物を用いることが基本となる。
そして虚証を治すためにはある程度の補性薬が、また寒証であれば温性薬も必要となる。

大黄・枳実・厚朴・麻子仁・杏仁が降性、麻子仁・杏仁が潤性である。
適応 老人・虚弱者の便秘(燥屎)

処方名 木防已湯
(もくぼういとう)
構成方剤 防已 石膏 桂枝 人参
方剤の意味 石膏は強い寒性薬、防已は利尿薬で、この二つが主薬を成しているので、本方剤は熱証用で湿証用ということが出来る。
防已・石膏・桂枝はいずれも発散薬で、停滞した水分を発散させる方剤である。
石膏・防已という強い瀉性薬が入っているので、著しい虚証には用い難いが、桂枝・人参、ことに人参という補性薬が入っているので、息切れなどの虚証症状はあっても差し支えない。
適応 ①心不全、②心臓性喘息、③肺水腫、④腎炎。
通常、心下痞堅といって、心下部が板のように堅くなり、尿意減少と浮腫があって、息切れ・動悸・喘鳴などを伴うことを目標とする。

処方名 薏苡仁湯
(よくいにんとう)
構成方剤 麻黄 甘草 桂枝 当帰 芍薬 蒼朮 薏苡仁
方剤の意味 麻黄湯から杏仁を除いて、当帰以下を加えたもの。
麻黄湯は温性の発表剤であるが、これに蒼朮・薏苡仁という湿を除く薬物、芍薬という鎮痛薬、血液循環を良くする当帰が加えられて、やや慢性化して貧血傾向のあるリウマチ向きの方剤に作り上げられている。
リウマチは漢方では風湿といい、関節に水がたまって痛い病気とされているが、この方剤はまさに風湿用の方剤である。
小青竜湯の場合と同じく、ここでも潤性薬たる杏仁は除かれている。
適応 多発性関節リウマチまたは筋肉リウマチ。
ただし、寒証で、汗かきでない、やや慢性化したもの。

処方名 抑肝散
(よくかんさん)
構成方剤 柴胡 甘草 白朮 茯苓 当帰 川芎 釣藤
方剤の意味 加味逍遥散の芍薬・乾姜・薄荷・梔子・牡丹皮の代わりに川芎・釣藤を入れたものと見ることが出来る。
芍薬の鎮痛・鎮痙作用の代わりに釣藤の鎮静・鎮痙作用が加わっており、これが柴胡の胸脇苦満を治す作用と相まって筋肉の緊張を緩め、強い痙攣効果を発揮するものと思われる。
白朮・茯苓は湿を除く目的で入れられていると思われるが、同時に茯苓には動悸をおさめる作用もあり、これも鎮静・鎮痙効果を高める上に役立っている。
当帰・牡丹皮の代わりに当帰・川芎の組み合わせになっているので、駆瘀血作用よりも補血作用と考えてよく、また薄荷・梔子などがないから、のぼせを下げる作用はない。

抑肝散とは肝気(神経の高ぶり)を抑えるという意味であろうが、まさにその通り鎮静・鎮痙効果を期待して用いられる方剤で、腹証的には胸脇部から上腹部の緊張が強く、しかも虚証で貧血傾向があるというのが、この方剤の適応となる。
適応 パーキンソン病、膿出血後のふるえ、乳幼児のひきつけ、夜驚症、眼瞼痙攣などに用いる。
神経性斜頸、夜の歯ぎしりにも有効との報告がある。

処方名 抑肝散加陳皮半夏
(よくかんさんかちんぴはんげ)
構成方剤 柴胡 甘草 白朮 茯苓 当帰 川芎 釣藤 陳皮 半夏
方剤の意味 抑肝散に陳皮と半夏を加えたもの(抑肝散に二陳湯を合わせたものと見ることもできる)で、陳皮には理気作用と祛痰作用、半夏には鎮吐作用があることから、抑肝散より一層神経症状が強く、悪心・嘔吐を伴う時に適することが分かる。
腹証は一般に抑肝散の場合よりも一層虚証で、左の臍傍から心下部にかけて動悸がつき上がるようなことが多い(半夏は降性が強いので、それに奏効すると思われる)。
適応 抑肝散の場合に同じ。
ただし一層虚証で、上記のような腹証がある場合に良い。

処方名 六君子湯
(りっくんしとう)
構成方剤 人参 白朮 茯苓 甘草 半夏 陳皮 生姜 大棗
方剤の意味 六君子湯とは人参・白朮・茯苓・甘草・半夏・陳皮の六つが副作用のない上薬だという意味であろうが、半夏には副作用がないとは言えない。
むしろ人参・白朮・茯苓・甘草を合わせたものを四君子湯としたので、それに二つ加えたものを六君子湯と呼んだと考えた方が良いかもしれない。
生姜・大棗のペアを加えた意味は、四君子湯の場合と同様である。

四君子湯に悪心・嘔吐(漢方的には胃内停水に基づくと考える)をとめる半夏と、胃内停水や痰を除く陳皮が加わったもの(四君子湯と二陳湯の合方と見ることもできる)で、四君子湯よりも一層胃内停水を除く作用が強化されているが、一面、陳皮には若干の瀉作用があり、四君子湯ほど虚証の著しくない胃アトニー・胃下垂(これを脾虚という)に、広く用いることが出来る。
半夏の入った方剤であるが、ここにもその副作用を除くために生姜が配合されている。
適応 胃アトニー・胃下垂・慢性胃炎で、胃内停水や腸鳴を訴える者に良い。
むろん顔色の悪い虚弱体質者向きで、吐き気や食欲不振のある者にも良いが、慢性下痢を主症状とする者には四君子湯の方が良い。

処方名 立効散
(りっこうさん)
構成方剤 細辛 升麻 防風 竜胆 甘草
方剤の意味 細辛・升麻・防風はいずれも発散性で、細辛・防風には鎮痛作用があり、ことに細辛には麻酔作用もある。
升麻は咽頭の腫痛にも良いとされている。
竜胆は発散作用はないが、解熱・消炎作用がある。
従って、本方剤は主として口腔内の消炎・鎮痛に適した方剤と見ることが出来る。
適応 歯痛、歯齦痛、口腔内の腫脹疼痛。
熱寒を考慮しないで用いられる。
湯に溶かして、しばらく口に含んでから飲み込むようにするとよい。

処方名 竜胆瀉肝湯
(りゅうたんしゃかんとう)
構成方剤 竜胆 黄芩 梔子 車前子 沢瀉 木通 当帰 地黄 甘草
方剤の意味 竜胆・黄芩・梔子は漢方で瀉火薬と言われるもので、炎症をおさめる作用が強く、そのほかの生薬も大部分寒性薬で、この方剤が熱証向きの方剤だということが分かる。
また車前子・沢瀉・木通という利尿薬を中心に、方剤は湿証向きに構成されており、炎症によって尿が出渋るのを快通させる方剤と見ることが出来る。
当帰・地黄は下腹部の血液循環を促す働きをするものと考えられる。
方剤全体としてやや発散性があるので、陰部の炎症や冬痛にも効果がある。
また、上部(眼・耳など)の充血を下げ、湿を除くということを目標に、高血圧症・緑内障・中耳炎にも用いられる。
適応 ①尿道炎・淋疾・膀胱炎、②膣炎・子宮内膜炎、ことに外陰部の疼痛、③陰部湿疹・頑癬
④高血圧症、⑤緑内障、⑥中耳炎
ただし、炎症性で、冷え症や虚証でないことを条件とする。

処方名 苓甘姜味辛夏仁湯
(りょうかんきょうみしんげにんとう)
構成方剤 茯苓 甘草 乾姜 五味子 細辛 半夏 杏仁
方剤の意味 この方剤は小青竜湯から麻黄・桂枝・芍薬を去って、茯苓・杏仁を加えたものである。
麻黄・桂枝が発汗薬、芍薬が風邪(ふうじゃ)を治す薬であるが、これらを除くことによって表証用の方剤を裏証用に方剤を変え、さらに燥湿作用を強化する目的で茯苓を、鎮咳・祛痰作用を強化する目的で杏仁を加えたと見ればよい。
従って、小青竜湯証に似て、慢性化したものに適した方剤と見ることが出来る。
適応 ①慢性気管支炎、気管支拡張症
②気管支喘息で慢性化したもの
③腹水・浮腫があって咳を伴う場合
ただし、寒虚証で咳が出、痰は薄いことを条件とする。

処方名 苓姜朮甘湯
(りょうきょうじゅつかんとう)
構成方剤 茯苓 乾姜 白朮 甘草
方剤の意味 苓桂朮甘湯の桂枝の代わりに乾姜が入ったもの。
桂枝も乾姜もともに温性で燥性であるが、乾姜にはのぼせを引き下げる作用はなく、その代わりに温性と燥性は桂枝よりも強い。
寒証と湿証の著しい者(ただし、この場合の湿は胃アトニーの湿ではなく、腰部の冷痛を起こす前提としての湿である)を対象に用いる方剤と言える。
適応 腰冷を目標に病名に関係なく用いる。
水中に坐するが如き状態によいと古典にはある。
腰痛・夜尿症にも用いるが、あくまで腰の冷えが目標である。

処方名 苓桂朮甘湯
(りょうけいじゅつかんとう)
構成方剤 茯苓 桂枝 白朮 甘草
方剤の意味 桂枝・甘草の組み合わせは桂枝湯にも麻黄湯にも含まれている組み合わせであるが、この方剤の場合は、表証用(発汗・発散)というよりは、桂枝ののぼせを引き下げる作用を期待して組み入れられているように思われる。
茯苓と白朮はいずれも燥性薬で、水の偏在を調整する作用があるとされている。
また茯苓には動悸を鎮める作用もあるようである。
茯苓・甘草は平性薬であるが、桂枝・白朮は温性薬であり、またすべて補性薬であるから、この方剤は寒虚証で湿証向きの方剤と言える。
すなわち、胃アトニータイプで、尿量も比較的少なく、立ちくらみや動悸のある者に適する方剤と言える。
適応 立ちくらみや眩暈を、漢方では水分の偏在によると考える。
苓桂朮甘湯は、まず第一にこれを目標として用いる。
一般に胃アトニー・低血圧の患者で、眩暈のある者に良い。
仮性近視・慢性軸性視神経炎も同じ素因の上に成立する疾病のようで、これにも苓桂朮甘湯が効くことが多いようである。

処方名 六味丸
(ろくみがん)
構成方剤 熟地黄 山薬 山茱萸 茯苓 沢瀉 牡丹皮
方剤の意味 八味丸から桂枝と附子を除いたもの。
熟地黄・山薬・山茱萸はいずれも補性・升性・潤性で、強壮作用が強く、一方、茯苓と沢瀉は燥性で、局所的な水分の停滞を除く作用であるが、方剤は全体として潤性である。
これに血液循環障害を除く牡丹皮が加えられて、熟地黄とともに血液循環改善にも役立つ方剤となっている。
熟地黄・山茱萸が温性であるほかは、構成生薬はすべて平性または寒性(沢瀉・牡丹皮)である。
従って、方剤は全体として寒性・補性・潤性であるということが出来る。
この方剤はいわゆる腎陰虚の代表的方剤で、腰から下の精力をつけ、循環を良くし、尿の出渋るのを快通させる方剤だと考えればよい。
鎮痛作用はあまり期待できない。
適応 ①糖尿病、②腰痛(ことに老人性のもの)、③性能力低下(陰萎)、④前立腺肥大症、⑤夜間尿
ただし、八味丸の場合と違って、冷えがなく(しばしば足がほてる)、顔色もよい、熱証であることを条件とする。
口渇があるのが普通である。