漢方の養命庵 中野薬局


主要な漢方処方

か行 さ行 た行 な・は行 ま・や・ら行


あ    

用語解説

処方名 安中散
(あんちゅうさん)
構成方剤 桂枝 甘草 延胡索 良姜 牡蠣 縮砂 茴香
方剤の意味 安中散の中は中焦の意で中焦(消化器)を安んずる方剤の意。
桂枝・甘草・延胡索・良姜・牡蠣は桂枝加芍薬湯の変形と見ることが出来る。
すなわち、芍薬に代わって心下痛にはより効果の強い延胡索が入っており、生姜の代わりに、同じ仲間でより効果の強い良姜が、大棗の代わりに良姜の中和薬として牡蠣が入っていると考えられる。
牡蠣には胃酸過多中和作用があり、良姜の熱作用を中和するのにも役に立つ。
縮砂・茴香は桂枝とともに芳香性健胃薬良姜は辛辣性健胃薬で、これに鎮痛薬たる延胡索胃酸過多中和薬たる牡蠣、緩和薬たる甘草が加わって、構成されている。

構成生薬の大半は温性・補性薬であるとともに燥性薬であるから、桂枝加芍薬湯と違って、はっきりと湿証向き
つまり、胃内停水や胃酸過多のある寒虚証者の健胃鎮痛剤である。
適応 冷え症で胃アトニータイプの者の次の諸症状
胃・十二指腸潰瘍 慢性胃炎 胃酸過多
いずれも心下部の持続性疼痛に用いられる

処方名 胃苓湯
(いれいとう)
構成方剤 生姜 大棗 甘草 厚朴 蒼朮 陳皮 沢瀉 茯苓 猪苓 白朮 桂枝
方剤の意味 平胃散と五苓散の合方で、重複するものがないので、二つの方剤がそのまま加えられた形になっている。
平胃散が既に強い胃内停水除去剤であるのに、さらに湿を除く代表的方剤ともいうべき五苓散が加わっているのであるから
胃内停水や腸内の水分の停滞を除く作用が強い方剤と見ることが出来る。
適応 急・慢性胃炎、消化不良、食あたりなどで下痢する場合に用いる。
胃内停水・腸鳴・尿量減少・口渇を目標に広く用いることが出来るが、著しい寒虚証者には適さない

処方名 茵蔯蒿湯
(いんちんこうとう)
構成方剤 茵蔯 梔子 大黄
方剤の意味 茵蔯・梔子ともに黄疸の要薬で、これに下剤である大黄が加わったものである。
三者とも寒性・燥性・降性であるから、この方剤は湿証で熱証で升証向きだと言うことが出来る。
肝疾患は末期症状として腹水・尿量減少を起こすことからもわかるように、原則的に湿証であり、黄疸は原則的に熱証である。
尿の出が悪いことは升証であるが、大便の出が悪かったり、時には吐き気を訴えることもあって、肝疾患は原則として湿熱升証であることがわかる。
西洋医学でも黄疸には下剤や利尿剤や消炎剤を用いる機会が多いが、この方剤はまさにそれらを兼ねた格好の方剤と見ることが出来る。
適応 黄疸、ことにその初期には何は措いても用いたい方剤である。
しばしば、大柴胡湯・小柴胡湯などと併用する。
ただし、大黄が入っているので、下痢傾向の者、著しく体力の衰えている者には用い難い
黄疸がなくても、広く肝疾患、蕁麻疹等に用いていいが、顔色が悪くて手足の冷たい明らかに寒証の者には用いてはならない

処方名 茵蔯五苓散
(いんちんごれいさん)
構成方剤 茵蔯 沢瀉 茯苓 猪苓 白朮 桂枝
方剤の意味 五苓散に茵蔯を加えたものである。
茵蔯は黄疸の要薬であるから、五苓散の適応証で黄疸を伴うものが、この方剤の適応ということになる。
しかし、茵陳は同時に消炎性利尿薬(寒性で燥性)であるから、黄疸がなくても、熱虚証の湿証(尿の出が悪い場合)に広く用いることができる。
適応 肝炎、ことに黄疸を伴うもの。
胸脇苦満の著しくない虚証者を対象とする(もっとも小柴胡湯と合方して、胸脇苦満の著しい者に用いる場合もある)。
蕁麻疹に用いて、しばしば有効である。

処方名 温経湯
(うんけいとう)
構成方剤 当帰 川芎 芍薬 人参 麦門冬 半夏 桂枝 生姜 呉茱萸 甘草 牡丹皮 阿膠
方剤の意味 四物湯から熟地黄を除いて、人参以下を加えたものと見ることができる。
四物湯は温性・補性・潤性の方剤であるが、これにさらに補性・潤性の強い人参と麦門冬、温性の強い呉茱萸・桂枝・生姜が加えられ、温性・補性・潤性が強化されている。
半夏・麦門冬・呉茱萸は降性で、いわゆる冷えのぼせを下げるのに役立つ。
牡丹皮・阿膠は理血薬で、当帰・川芎とともに血液循環障害を治す。
適応 ①不妊症、②月経不順、③指掌角皮症
ただし、寒証で虚証で、皮膚がカサカサし、唇や鼻の乾きがちの燥証であることを条件とする。

処方名 温清飲
(うんせいいん)
構成方剤 黄芩 黄連 黄柏 梔子 当帰 川芎 芍薬 地
方剤の意味 黄芩・黄連。黄柏・梔子は黄連解毒湯であり、当帰・川芎・芍薬・地黄は四物湯であるから、これは以上二つの方剤の合方である。
黄連解毒湯は熱実証向き(清熱)、四物湯は寒虚証向き(温補)の方剤である(温清飲の名はこれからとった)が、これを合わせた温清飲は、熱虚証向きと見ることが出来る。
ただし、虚証の著しい者には不向きといえる。
黄連解毒湯を構成する生薬は、全て寒性で消炎効果が強く梔子には止血作用もあるとされている。四物湯はいわゆる補血剤で、血液を補い、血のめぐりを良くする作用がある。
この二つが合わさったのが温清飲で、血液の鬱滞を伴った、赤みのある皮膚病に用いて効果のあることが多い。
ただし、当帰・地黄など潤性の薬物が多く入っているので、湿潤性の強い皮膚病には適さない。
適応 乾性の皮膚掻痒症で、やや鬱血性の赤みがあり、慢性化したものに適する。
ベーチェット病にもこのような症状を目標に用いてよい場合もある。
分泌物のあまりない熱証の皮膚疾患には、まず考えてよい方剤である。

処方名 越婢加朮湯
(えっぴかじゅつとう)
構成方剤 麻黄 甘草 石膏 生姜 大棗 白朮
方剤の意味 麻杏甘石湯から杏仁を除いて生姜・大棗を加えたものが越婢湯、これに白朮を加えたものが越婢加朮湯である。
石膏は強い寒性で、これが方剤中に入ると、他の生薬が温性であっても、方剤全体として寒性になるから、この方剤は寒性方剤である。
麻黄はエフェドリンの原植物で発汗・鎮咳の作用があるが、石膏と組み合わされるので、むしろ止汗的に働くと考える。
また杏仁が除かれているので、鎮咳作用もほとんど期待されない。
従って、本方剤中の麻黄は、その発散性と燥性が期待されて入れられていると考えてよく、それに白朮という燥性の強い薬物が加わることによって、方剤は全体として表証で湿証を治す(湿証を発散させて治す)ものと規定される。
実は杏仁を除いたのも、咳を目的としない方剤だということのほかに、杏仁が潤性で湿証には邪魔だという意味合いも含まれている。
生姜・大棗は桂枝湯にも柴胡剤にもしばしばペアとして入れられている薬物で、方剤全体の作用を緩和し、副作用を除く目的で入れられている。
方剤全体として表熱実証で湿証用の方剤と言うことが出来る。
適応 急に浮腫が強く出たり、尿が出なくなったりした場合に用いる。
ただし、顔色のよい熱証タイプであること、ひどい虚証でないことを条件とする。
ネフローゼ・関節リウマチ・湿疹などに用いる。

処方名 黄耆建中湯
(おうぎけんちゅうとう)
構成方剤 桂枝 芍薬 生姜 大棗 甘草 膠飴 黄耆
方剤の意味 小建中湯(下線部)に黄耆を加えたものである。
黄耆は皮膚の栄養を高め、汗を調節する強壮薬であるから、小建中湯に黄耆を加えることによって、虚弱を治す力がさらに強化された見ることができる。
ことに盗汗をかくような虚弱児には、小建中湯より好適と言える。
適応 小建中湯証より体力がなく、盗汗、自汗、腹痛、皮膚疾患などの場合に用いる。

処方名 黄芩湯
(おうごんとう)
構成方剤 黄芩 芍薬 大棗 甘草
方剤の意味 半夏瀉心湯から黄連・乾姜・人参・半夏を去って、芍薬を加えたものとも見ることができるが、方剤の意味を考える上では、むしろ桂枝加芍薬湯の桂枝を黄芩に代え、温性薬の生姜を去ったと見る方が分かりやすい。
黄芩と桂枝の入れ替えは、ちょうど黄連湯と反対で、この場合は温性の芳香性健胃薬を寒性の苦味健胃薬に代え、さらに温性の生姜が除かれているので、方剤全体が寒性、消炎性となっている。
構成生薬はすべて収斂性であり、芍薬には鎮痛、大棗・甘草には緩和作用があるから、熱証の人の炎症性下痢・腹痛には格好の方剤と見ることが出来る。
適応 急性胃腸炎、ことに腸炎。
ただし、熱証向き、炎症向きであるから、寒虚証者の下痢には適さない

処方名 黄連湯
(おうれんとう)
構成方剤 黄連 乾姜 人参 半夏 大棗 甘草 桂枝
方剤の意味 半夏瀉心湯から黄芩を去って、その代わりに桂枝を加えたもの
黄芩は消炎性の苦味健胃薬、桂枝は温性の芳香性健胃薬という違いがあるが、方剤の性格は、半夏瀉心湯とそれほど大きな違いがあるとも思われない。
すなわちこの方剤も、全体から見れば熱虚証用で、心下部のつかえ、胃内停水、悪心・嘔吐を目標に用いるべき方剤と考えられる。
ただ桂枝は黄芩と違って温性であるから、胃の冷えを温める作用が期待されること、また桂枝にはのぼせを治す作用があるから、そのような症状を伴う場合に有効である。
適応 急性胃炎・胃腸カタル。
ただし、明らかに寒証の者には適さない。

処方名 黄連解毒湯
(おうれんげどくとう)
構成方剤 黄芩 黄連 黄柏 梔子
方剤の意味 三黄瀉心湯の大黄の代わりに黄柏と梔子が入ったものと見ることが出来る。
構成生薬はすべて寒性・瀉性・降性であって、身体上部の充血を去り、精神を鎮静させる作用が強い
梔子には止血作用もある
適応 顔色の赤い熱実証タイプの人の、のぼせを下げる目的で広く用いられる。
①脳充血または高血圧・脳梗塞による精神不安や不眠
②赤ら顔で、のぼせ症の人の喀血・吐血・衂血・眼出血(球結膜下出血、網膜出血)
③過飲による心煩・急性胃炎
④火傷後の興奮
⑤皮膚掻痒症で赤みが強く痒さのひどいもの

処方名 乙字湯
(おつじとう)
構成方剤 柴胡 黄芩 升麻 当帰 甘草 大黄
方剤の意味 柴胡・黄芩の組み合わせが基礎になっているので、一応柴胡剤の一つに数えることが出来、大黄が入っているので実証向き、すなわち大柴胡湯の系統の方剤と見ることができる。
しかし一面、当帰・甘草のような補性薬も入っているので、著しい実証向きとは言い難い。
この方剤は、もともと痔や脱肛の薬として作られたもので、升麻は引き上げる作用、当帰は痔出血に対して補血を目的として組み入れられたものと考えられる。
適応 実証で便秘傾向の者の痔核・脱肛・痔出血に用いる。
時に婦人の陰部の痒痛にも用いる。