つれづれ窓

一艘の難破船が横たわる

 

広島県における農業の実態―2000年農業集落カード分析―

1.   はじめに   3

2.   経営耕地面積の減少と農業の衰退   4

(1)    農業における農地の役割   4

(2)    地域類型別農業集落当り経営耕地面積の推移   6

3.   地域類型別総農家数の減少による過疎化の実体   7

4.   65才以上農家人口構成の推移-高齢化の進行   8

5.   地域類型別農業就業人口年齢構成の推移-農業労働力の質の劣悪化-   9

6.   地域類型別経営耕地規模別農家数の推移と農業の動向   13

(1)    農民層分解の動向   13

(2)    3ha以上層の動向   16

(3)    農民層分解の特徴   17

7.   地域類型別兼業化の推移   17

8.   地域類型別農業経営組織の推移   19

9.   まとめ   23

10.    GIS(地理情報システム)による実態の確認   25

(1)    広島県における4つの地域類型   26

(2)    経営耕地面積の実態   28

1)   地域類型1  28

2)   地域類型2  32

3)   地域類型3  33

4)   地域類型4  35

(3)    耕作放棄地率の実態   37

1)   地域類型1  38

2)   地域類型2  40

3)   地域類型3  41

4)   地域類型4  43

(4)    農家人口高齢化と労働力の実態   45

1)   農家人口   45

1)-1   地域類型1の農家人口高齢化   45

1)-2   地域類型2の農家人口高齢化   49

1)-3   地域類型3の農家人口高齢化   51

1)-4   地域類型4の農家人口高齢化   54

2)   農業就業人口   55

2)-1   地域類型1  56

2)-2   地域類型2  60

2)-3   地域類型3  61

2)-4   地域類型4  63

3)60歳未満農業専従者率

3)-1 地域類型1(65歳未満男子農業専従者率の検討)

3)-2 地域類型2(65歳未満男子農業専従者率の検討)

3)-3 地域類型3(65歳未満男子農業専従者率の検討)

3)-4 地域類型4(65歳未満男子農業専従者率の検討)

(6)    農業経営組織の単一経営化の深化   64

1)   地域類型1  71

2)   地域類型2  73

3)   地域類型3  74

4)   地域類型4  75

(6)     GIS分析による広島県農業集落の実態   75

 

 

 

1.    はじめに

ここでは「2000年世界農林業センサス農業集落カード」(広島県)を用いて広島県における地域類型別農業生産の実態を分析したい。以下はいずれもこのデータを用いて筆者が計算、加工したものである。農業集落を単位とした統計は、その崩壊現象によって次第に困難になりつつある。このセンサスによると、表―1に示すような4つの地域類型(地域類型区分については本章末の注を参照されたい)に区分されて、各地域類型に属する農業集落が調査されている。このセンサスの説明書によると「農村の地域社会における最小の単位である農業集落ごとに、農業、農村の社会構造の現状や構造変化等が見られる」(「農業集落カードの概要」p.1)と記述されている。しかし同じ単位で土地、労働力、栽培作物などの農業生産の実態をあらわす統計項目も多数含まれている。地域類型の区分方法は旧市区町村の農業集落単位で行い、地域類型1は都市的地域、地域類型2は平地農業地域、地域類型3は中間農業地域、地域類型4は山間農業地域としてそれぞれ定義されている。

このうちで注目の中山間地域、すなわち地域類型3と地域類型4を合わせた地域の農業集落数は約77%のシェアである。

表―1:地域類型別農業集落数の構成

地域類型

農業集落数

構成

名称

地域類型1

1,020

21.48

都市的地域

地域類型2

71

1.49

平地農業地域

地域類型3

2,391

50.35

中間農業地域

地域類型4

1,266

26.66

山間農業地域

合計

4,748

100.00

 

このセンサスの何よりも大きな特徴は農業集落を単位とする統計であることである。農業集落とは「もともと自然発生的に農村地域に存在する地域社会で、家と家とが地縁的、血縁的に結びつき各種の集団や社会関係を形成してきた社会生活の基礎的な単位である」(「農業集落カードの概要」p.1)と定義されているが、農業生産が行われ始めた初期から人間関係の変化を機軸としつつ、血縁的な共同体として始まり、地縁的、団体的な結合等の新たな人間関係を加えながら、わが国の長い歴史を引き継いで現在に至っており、歴史的産物としての、また経済のグローバル化の自己を見失いがちな条件の中で、ナショナルな源流としての意義を解明すべき対象でもある。農業集落は、わが国高度経済成長期を経て次第に崩壊現象が顕著になってきており、広島県においてもその共同体としての存在意義は薄れ、単なる遺制として形骸化しているのが現状と考える。特に都市的地域、平地農業地域における農業集落の実態は地図上の境界線としての区分はあり、行政の末端的な連絡機能などがかろうじて残る範囲であるが、共同体としての人為的な関係性に基づく機能性は薄らいでいる。その制度的な内実が次第に商品経済の波に洗われ解体しつつあるとはいえ、農業集落が慣行的に継承してきた助け合いの相互扶助精神や自然を尊重し、その価値を高く評価する価値観の趨勢は一朝一夕に消え去るものではなく、人々の倫理観やモラルとしてひっそりと息づいている。また中山間農業地域においては山や谷を含む地形が農地を区切り、農業集落を区分する要因として働く場合も多く、その制度はいまだに現実的、実践的な機能を持っている場合が多いといえよう。

ここでは紙数の関係から統計的な現象を追いながら、中山間地域農業の現状を相対化する分析にとどめざるを得ない。農業集落を通してわが国の歴史的な源流にさかのぼり、農業生産のみならず広い視野で農業、農村を評価し、ローカルではあるが、根っこにある社会、経済的価値を検証する課題は残さざるをえない。

2.    経営耕地面積の減少と農業の衰退

(1)     農業における農地の役割

 ここではまず農業生産の生産手段として決定的に重要な経営耕地面積の実態分析を行う。土地は他産業の場合も重要な生産手段ではあるが、高度や面積など空間的な利用を中心としていて、拡大再生産を図る上で必然性をもって、面積を拡大しなければならない場合は少ないと考えられる。しかし農業生産が拡大再生産を志向し、生産物の量的拡大をもたらそうとすれば、必然的に耕地面積を増大しなければならない場合が多い。農業生産過程における農地の役割は空間的な要因と有機的原料としての土壌要因を兼ね備えており、後者の生産機能が不可欠で、大きいからである。農業の発展の相を点検するには経営耕地の量的変動の動向を見ることが重要であると考える。表-2に示すデータは、広島県を4つの地域類型に区分して、それぞれの経営耕地面積の推移を示したものである。ここでは地域類型3と地域類型4を合わせた地域、すなわち中山間地域と称されている地域の特徴を相対化するために比較を行いたいのである。なぜなら中山間地域は、広島県においては農業生産の中核でありながら、市場条件を含めて交通立地条件、地形条件等の農業の経済的発展にとって重要な条件が相対的な不利性をこうむっていると考えられているからである。地域格差が拡大するなかで、不利性を受けて高齢化、過疎化、兼業化に見舞われてきた地域であるからである。

表-2地域類型別経営耕地面積の推移(単位:ha                             

地域類型

1970

1975

1980

1985

1990

1995

2000

地域類型1

15,054

11,838

10,553

9,571

8,038

6,940

5,835

地域類型2

2,256

2,145

2,072

1,880

1,760

1,569

1,461

地域類型3

46,803

41,650

39,961

37,617

34,097

30,900

28,072

地域類型4

20,139

17,450

16,651

15,898

14,688

13,695

12,228

不利性の反面は地域の独自性を生み出すばねに転化することも考えられるが、実際にはそのような逆転構想を打ち出すのは極めて難しいのである。各年次とも経営耕地面積は総農家(=自給農家+販売農家)概念で表示している。農家概念についてはめまぐるしい定義の変更が行われており、煩雑であるため、章末に注として示した。

 さてグラフによれば、広島県の場合、経営耕地面積が最も大きいのは、地域類型3であり、次いで地域類型4、地域類型1、地域類型2の順となっている。このような順序は地域類型の定義の性格によるといえよう(章末定義参照)。一口に言えば定義に当てはまる自然条件分布の偶然性に依拠しているといって良いが、わが国の場合傾斜を伴う山林面積が多く、中山間地域の面積が国土の主要部分を占め、多くの市町村で農業の拠点となっているという一般性を持っているといえよう。

 1970年から2000年にかけては2つの経済成長の大変動期を含んでいる。すなわち2回にわたるオイルショックにより、経済成長率約10%の高度成長が終焉し、経済成長率約45%の安定成長への移行、1980年代後半から始まるバブル経済と1991年からのその崩壊、不況期である。この期間における地域類型3と地域類型4を合わせた中山間地域の経営耕地面積のシェアの推移を表-3に示した。中山間地域の経営耕地面積の減少スピードは速いが、それ以上に地域類型1、地域類型2のそれが早く、相対的には中山間地域の農地面積シェアは直線的に高まっていることを示している。

表-3:中山間地域における経営耕地面積シェアの推移

 年次

1970

1975

1980

1985

1990

1995

2000

中山間地域農地面積シェア

79.46

80.87

81.77

82.37

83.27

83.98

84.67

 すなわち全般的な経営耕地面積の減少の中で、相対的には中山間地域の経営耕地面積がますます大きいシェアとなっており、中山間地域が農業生産の中核的位置を占め続けているのである。広島県においては地方的な政治課題や景気対策として、中山間地域の農業振興をいかに推進し、その農業生産をいかに立て直してゆくかが今後も変わらぬ大きな課題となることが予想される。

 

(2)     地域類型別農業集落当り経営耕地面積の推移

 次に農業集落を単位とする統計調査であるから、地域類型別に農業集落単位当りの経営耕地面積の推移を表―4に示した。

表-4地域類型別農業集落当り経営耕地面積の推移(単位:a                          

地域類型

1970

1975

1980

1985

1990

1995

2000

地域類型1

1,549

1,219

1,086

941

790

682

572

地域類型2

3,177

3,022

2,918

2,648

2,479

2,209

2,057

地域類型3

1,965

1,748

1,677

1,575

1,427

1,293

1,174

地域類型4

1,596

1,386

1,318

1,259

1,160

1,082

966

 これによると地域類型21農業集落当り経営耕地面積が飛びぬけて高い。しかしそれは1970年には約32haであったが、2000年には20haにまで激減している。

次いで地域類型3のそれが高いが、これも1970年の農業集落当り約20haから2000年の約13haまで直線的に激減している。21世紀を展望した農業集落営農組織の育成が1農業集落当り20haという経営耕地規模基準を設けて農政の補助対象としての資格を付与する案が拒否されざるを得ないのはこのグラフによって明らかであろう。地域類型2のみがその基準を満たし、他は複数集落の合併等の手を打たない限り、すべて対象外になるからである。

地域類型1、都市的地域では分解が極めて早く、2000年時点で平均農業集落当り経営耕地面積は僅かに5ha強に低落している。オイルショックを挟む1970から75年と1980年代後半からのバブル経済期には、タイムラグを伴うがやや減少スピードが速く、その後は緩くなっている。

農業集落単位当りの経営耕地面積で見ると2000年の広島県農業の零細性はますます激化している。1970年以降なかんずく地域類型1=都市的地域の農業集落の分解が急速に進んだ。1970年には都市的地域と地域類型4との1農業集落当り経営耕地面積はほぼ同水準の約15haであった。2000年には前者は約5ha、後者は約10haと縮小し、両者の差は倍半分になった。

ここでも表―5に示すようにいずれの地域類型の1農業集落当り経営耕地面積の時系列も1次方程式が良く当てはまり、これによって容易に1農業集落の経営耕地面積の推移を計算することができる。いずれの地域でも農業の衰退色がすべてを覆いつくしていて、衰退の度合の差のみがあらわになっている。4つの地域では単利計算で年率-1.17-2.1%のスピードで農業集落の経営耕地面積が減少している。農業労働力が農業から引き上げられ、他産業へ移行し、農業が分解、消滅して、高齢化と過疎化をもたらした事態の経営耕地面積への反映であるといえよう。

表-519702000年農業集落当り経営耕地面積(単位:a)への直線のあてはめ       

地域類型

直線式のあてはめ

決定係数

減少年率(%)

地域類型1

y = -153.53x + 1591.2

0.96

-2.10

地域類型2

y = -193.68x + 3419.1

0.98

-1.17

地域類型3

y = -126.16x + 2055.9

0.98

-1.34

地域類型4

y = -94.877x + 1631.9

0.96

-1.32

注)①計算はx1970年なら11975年なら2・・を代入して求める。得られた数値の単位はaである。②減少年率は方程式でなく統計値を用いて計算した。

 

3.    地域類型別総農家数の減少による過疎化の実体

経営耕地面積の激減には総農家数の激減が先立っている。表―6に広島県における地域類型別1農業集落当り総農家数の推移を示した。1970年から2000年にかけて総農家数は直線的に激減している。期間中で減少幅が最も大きかったのは1985年から1990年にかけてのわが国経済のバブル期最後の5年間である。特に減少の大きかった地域は地域類型11970年の38戸から2000年の17.5戸へ46%水準に減少している。30年間におけるその減少速度は単利計算で年率-1.8%である。ちなみに第2位は地域類型2の-1.3%3位は地域類型45の-1.2%となっている。地域類型1は他地域に比べて景気循環の影響を敏感に反映し、19701975の高度成長のタイムラグによる余波の残る期間と1985年から90年代にかけてのバブル期に、よりスピーディに農業を廃業し、他産業へと転換を図ったことを示している。

表-6:地域類型別農業集落当り総農家数の推移                                  

地域類型

1970

1975

1980

1985

1990

1995

2000

地域類型1

38

34

32

29

23

20

17

地域類型2

41

40

38

35

31

27

25

地域類型3

29

28

27

25

22

20

18

地域類型4

22

21

20

19

17

16

14

1農業集落当り総農家数の最も高いのは地域類型2であるが、それは1970年の41戸から、2000年には25戸、60%水準に減少した。地域類型3、4すなわち中山間地域では前者で1970年約30戸から2000年約18戸と60%水準へ、後者で1970年の約22戸から2000年の14戸と63.6%へ激減している。30年間に総農家戸数減による過疎化があまねく進行したといえよう。

4.    65才以上農家人口構成の推移-高齢化の進行

表-7:地域類型別65才以上男女別構成の推移(単位:%)                                                                                   

 

男子

女子

1975

1980

1985

1990

1995

2000

1975

1980

1985

1990

1995

2000

地域類型1

14.78

16.97

19.12

23.02

28.18

31.34

17.42

20.27

22.45

25.83

31.38

35.48

地域類型2

15.19

16.52

18.13

21.59

27.74

31.35

17.05

19.41

23.26

26.73

32.16

36.52

地域類型3

16.16

18.02

19.94

23.49

28.74

32.99

17.85

20.86

23.61

27.40

33.67

38.60

地域類型4

17.40

19.31

21.29

25.07

31.70

35.89

18.90

22.07

24.66

28.92

36.04

41.54

表-7は地域類型別に65才以上農家人口構成によって高齢化の度合いを示したものである。1970年からいずれの地域でも急速な農家人口の高齢化が進んだことを示している。そしてバブルのタイムラグで、1990年から1995年にかけての5年間が最も高い高齢化率の伸びを示している。地域類型3、4で高齢化率は相対的に高くなっており、中山間地域の農業担い手問題の深刻さを示している。それに反し地域類型1、2の農家人口は相対的に高齢化率が低くなっているが、そこでも2000年には男子で約32%、女子で約35%に達している。男女別では女子の農家人口高齢化率が23%高い水準で推移している。

 

5.    地域類型別農業就業人口年齢構成の推移-農業労働力の質の劣悪化-

農家人口に続いて、農業就業人口について年次別に地域類型別、年齢別の1970年から2000年にかけての構成の変化を概観したい。農業就業人口の定義は「満15才以上の人口で、1年間に自営農業のみに従事した者、または自営農業とその他の仕事に従事した人のうち、自営農業が主の人」となっている。従事した仕事のうち中心的に農業に従事した者ということになろう。対象年齢については1990年センサスまでは満16才以上の世帯員だったので、1995年以降との間に多少の不連続性を生んでいる。図-1に示すグラフは、男女別農業就業人口各年齢別構成比の計算式を、5つの男女年齢階層、1529才、3039才、4059才、6064才、65才以上、の各層別に定義している。例えば、1970年各年齢別男子については、1970年農業就業人口の各年齢別男子人口÷1970年農業就業人口の男子計人口×100、である。他の年次、年齢階層、性別についても同様である。このような算式を用いて各集落ごとに計算結果が出されており、ここでは各地域類型別の農業集落当り平均値を年次別、年齢階層別、男女別にグラフ化したものを示した。したがって各年次ごと、男女別に各年齢構成を足した結果は100%となり、グラフは各年次における年齢別の農業労働力の構成状況とその推移を示しているといえる。

図-1:広島県地域類型1における農業集落当り農業就業人口の年齢構成の推移

図-1から図-4に地域類型別農業就業人口の男女別年齢別構成の変化を示した。グラフのX軸の表示で、男女とも1970019950とあるのは、1970年から1995年の5年ごとの総農家概念での表示である。続く199011995120001の数値は、各々1990年、1995年、2000年の販売農家概念を対象として計算された構成比であることを示している。したがって19701995年は総農家概念(自給農家+販売農家)で、その後ろに、重複はあるが、1990年から2000年まで、販売農家概念で構成比を示している。両者の不連続性があるので、1970年から1995年までの総農家概念での観察結果を主にし、販売農家概念で示した系列は参考として見ることにしたい。ここでは図-1から図-4の4つのグラフをばらばらでなく、比較しながら総体的に分析したい。ここでも特に男子では65才以上人口構成比は、19701975年と19901995年にかけて景気の影響を受けた増加が、なかでも地域類型1、には鮮明に現れている。

地域類型1の男子の特徴をみると、65才以上人口層の農業就業人口が1970年には約47%であったが、1995年には約73%と高い水準になり、農業生産力を支える男子農業労働力の質を極端に低下させる最大の要因となっている。

男子4045才層が1970年には20%を占め、1980年には15%まで減少するが、担い手として健在であった。しかし6064才層が増加し、結局65才以上層の増加と併せて、高齢化を加速している。また1985年頃までは1519才層も約18%いて、農業生産は活力を持っていた。

農業就業人口の年齢構成の推移は、4つの地域類型で多少の時間的ずれを伴いながら、同姓間で極めてよく似た動きを示している。

図-2:広島県地域類型2における農業集落当り農業就業人口年齢構成の推移

図-3:広島県地域類型3における農業集落当り農業就業人口年齢構成の推移

図-4:広島県地域類型4における農業集落当り農業就業人口年齢構成の推移

男女間ではかなり異なった特徴が見られる。男子では65才以上人口の19701995年にかけての増加が、農業就業人口の質的低下の主因である。そして19701980年または1985年までは4059才層が第2位の比率を保持して、農業生産力を牽引していたが、1980年または1985年以降急速に減少し、65才以上と6064才層が主力構成を占めるようになり、1995年までに急速に高齢化を深めている。

一方女子農業就業人口では4059才層が65才以上層を越えて1970年から1985年まで第1位を占め、男子に比べて高い質の農業労働力を維持していた。しかし1985年以降65才以上人口が急速に増加して第2位に逆転し、高齢化に追い込まれている。とはいえ4059才層はいずれの地域類型でも1970年の約40%から1995年の約30%と第2位の地位を占め続け、6064才層の構成を超えて分厚く存在し、農村女子の農業労働力の健在振りを示している。男女雇用機会の均等が言われているが、弱小労働力としての女子労働力が中心となって農業生産力を支えている実体が浮かび上がってくる。女子労働力を担い手として支援し、農業生産の主力として再編制する必要性は広島県においては高いと考えられる。

労働力流出により、男女間の農業労働力年齢構成は大きく異なってきていることが明らかである。男子労働力は兼業化して流出が先んじ、高齢化が極端に進んでいるが、居残った女子労働力は4059才層の中堅労働力がいずれの地域でも2000年で約1418%を占め、地域類型1では約20%を占めており、留守を守る女子労働力ではあるが、そこに一縷の地域発展の可能性を見ることができる。

グラフの最後に付加した1990年以降の3時点の販売農家のみを対象とした年齢別構成は明らかに不連続な傾向を示している。しかし90年以降の動向を読み取る参考指標としては役立つであろう。いずれも1995年までの傾向を延長する様相を示していると考える。

このような実体を逆転することは急には困難であろうが、農政を積極的に出動させ(そのためには農政の方向転換が不可欠であるが)、農村女子を支援し高齢化による農業労働力の質的低下を補完し、合わせて男子農業労働力を、団塊の世代の退職などのメガトレンドを踏まえ、6次産業化、グリーンツーリズム等さまざまな方向で呼込み、強化することが地域経済を復興させるうえで不可欠である。

6.    地域類型別経営耕地規模別農家数の推移と農業の動向

(1)     農民層分解の動向

経営規模別農家の統計上の定義変更のため、2つの時代系列に分けてその農家構成の推移を地域類型別に分析したい。農家定義が時間的にしばしば変更されてきたのでやむを得ないといえよう。図-56には経営耕地規模別農家構成を示しているが、1つは197019751980年の3時点のそれぞれの経営耕地規模別を、例外規定販売農家、0.3ha未満農家、0.30.5ha農家、0.51ha農家、12ha農家、23ha農家、3ha以上農家、の7つの階層で構成し、合計100%とする。もう1つは1985199019952000年の4時点について、それぞれの経営耕地規模別を、自給的農家、例外規定販売農家、0.30.5ha農家、0.51ha農家、12ha農家、23ha農家、35ha農家、5ha以上農家の8階層で構成し、合計100%とする。農林統計において、1990年から0.3ha未満層が自給的農家と例外規定販売農家の2つの定義に分かれ、1985年から3ha以上層が35ha農家、5ha以上農家の2つの定義に分かれるという変更が行われたため2つの時間系列に分けて検討せざるを得ないのである。紙数の関係から2つのグラフを示し、農民層分解運動の概要を分析したい。

-5:地域類型別経営耕地規模別農家構成の推移(1970 ~1980)

-5に示したグラフの見方はたとえば1970年ならば、その時点の各経営規模階層の構成比率を足せば100%となっていて、規模階層別の構成とその時間的推移が分かる。これによると、地域類型1では0.3ha未満層の比率が跳びぬけて大きく、70年から80年にかけて約45%から56%までに増加している。0.3ha以上の諸階層はすべて減少し、農業経営規模縮小と全般的な落層化が起こっている。この場合の当地域におけるシェアの順位にも留意すべきである。すなわち第1位は0.3ha未満、第2位は0.3 ~0.5ha、第3位は0.5 ~1ha、第4位は1 ~2haとなって、規模の小さい順に並び、0.3ha未満層のみが肥大し、他はすべて減少しているという特徴である。

地域類型2では0.5 ~1ha層の構成が最も大きく約35%を占め、70年から80年にかけて微増している。第2位を占める1 ~2ha層は約29%から微減し、第3位を占める0.3ha未満層が20%から微増している。

地域類型3では0.5 ~1ha層が第1位を占めるが、減少して36%から32%となっている。第2位と第3位の0.3ha未満層、0.3 ~0.5ha層が増加し、1 ~2ha層が減少し小規模化が進んでいる。

地域類型4の農民層分解も地域類型3と同一のパターンで、経営規模の縮小と小規模化傾向が進んでいる。背景としては高度経済成長が終焉に差し掛かった時期ではあるが、まだ農業労働力の流出、兼業化の盛んな時期であり、労働力市場が農業労働力を吸収して農家の分解を促進する傾向が色濃く反映していると考える。

図-6:地域類型別経営耕地規模別農家構成の推移(1985 ~2000)

(注:1985年の自給的農家には例外規定販売農家が未分化のまま加わっているので、過大評価になっている。逆に同年の例外規定販売農家は0となって過小評価である。)

図-61985 ~2000年の経営耕地規模別農家構成の推移である。1990年から農家定義の変更が行われ、従来0.3ha未満層として定義されていた階層は、ここから自給的農家と例外規定販売農家に分けて計上されている。しかし1985年の状態は未分化のままで、グラフ上の自給的農家には例外規定販売農家の分が含まれていて、過大な値となっている。したがって連続性を欠くが、やむを得ず自給的農家として傾向を推測したい。

地域類型1では先の1970年から80年に0.3ha未満はかなりの勢いで増加し、滞留していたが、1985年もその傾向を持続しているように思われる。やや過大な値となって1985年は60%となっているが、1980年には約56%に達していたので、85年まで微増ないし横ばい状態と考えられる。1990年になると自給的農家として表示しているので、先述のように85年の数値に比べて例外規定販売農家(グラフに示されている)分だけ過小評価されている。90年は約55%に減少しているが、先に述べた含みを考慮すると、80年から90年にかけてほぼ横ばいあるいは微増状態が続き、2000年にかけて60%まで増加していると考えられる。第2位を占める0.3 ~0.5ha層は1985年に21%まで下がり、そこから90年にかけて微増し、2000年には20%へと微減している。第3位を占める0.5 ~1ha層は1985年に約14%まで減少するが、そこから2000年にかけて横ばい状態になっている。0.3ha未満層への滞留と他のすべての階層の減少によって、両者の開きは大きくなっている。しかし1970年から80年までの活発な農民層分解に比べると1985年から2000年にかけては、都市的地域である地域類型1の農民層の分解は相対的に停滞傾向が強くなっている。

地域類型2の場合、1970年から80年まで、第1位の0.5 ~1ha層が約35%を占めて、微増していたが、1985年には約32%へと減少に転じ、95年には30%まで下がり2000年にかけて約32%に回復している。第2位の1 ~2ha層は1970年から80年にかけて減少を続け、1985年には約24%まで下がり、そこから転じて上昇し1995年には約28%に達し、2000年にはやや下がって約23%となっている。第3位、4位を占める自給的農家と0.3 ~0.5ha層は横ばい傾向が強く現れている。

地域類型3、4はほぼ同一のパターンで農民層分解運動を続けているが、1 ~2ha層の微減、自給的農家の微増で、やや落層化傾向であるが、停滞傾向が強くなっている。高度経済成長から、低成長経済への転化、バブル崩壊期への突入によって農民層の分解も停滞しているという印象を否めない。

(2)     3ha以上層の動向

図-7:広島県における地域類型別3ha以上農家階層の推移

図―73ha以上層の動向をまとめてグラフ化した。これらの階層は、図-56では構成比がいずれも1%以下ときわめて小さく動向が不可視であったので、スケールを変えて表示し、消長を見ておきたい。左端の3ha以上層は、当然ながら35ha5ha以上層を含んだ数値で、1970年から1980年までを示している。したがって真ん中の1985年以降の35haへと続くグラフと連続性はない。そこで1970年から1980年までをみると、地域類型1では微増、それ以外では構成を直線的に高めている。1985年以降2000年の35ha層でも地域類型34はともに増加している。地域類型2は変動を伴いながらも増加している。地域類型1でも極めて微小であるが微増ないし横ばいしている。5ha以上層でも地域類型1を除いて、234は堅実に増加している。

(3)     農民層分解の特徴

以上のように1970年から2000年にかけて広島県農業における経営耕地面積規模別農家数の消長を示したが、1970年から1980年にかけては、全般的に農家分解の相が強く、バブルの崩壊する1990年代から自給的農家、0.3ha未満層への農家数の滞留が特徴であり、前の10年間の農業生産の分解と後の15年間の停滞が激しく進んだことを示している。ただそのなかで極めて量的には少なく、点的な動向であるが、3ha以上層の増加傾向の流れが見えることである。1つにはこのような方向性を拡大し、定着させることが望まれる。このような動向の農業経営経済的な合理性は規模の有利性と考えられるが、それを生かした農業の新たなビジネスモデルの開発等の実現が重要であろう。家族経営組織の伝統的な農業経営を超える組織的展開の必要性をも示唆している。

しかし他方で太宗となる停滞する0.3ha未満~2haの経営耕地規模農家を再編して農業生産の活力を生み出す方途を見出すことが、現実的でしかし困難な課題といわざるを得ない。

7.    地域類型別兼業化の推移

 ここでは地域類型別兼業化の推移を簡単に分析したい。景気循環に伴う他産業部門への農業労働力の流出によって、農家が兼業化を深め、農業生産に大きな影響を与えてきたからである。表-8~表-101970年から95年までの兼業化の推移を示すグラフを掲げた。表-8には専業農家率の推移を地域類型別に掲げた。4つの地域でほぼ類似の動きを示している。1970年から75年にかけてやや減少した後、安定成長期への移行後1995年にかけて漸増している。95年には約20%から26%の範囲にばらついている。専業農家率の高さは地域類型2341の順になっている。

表-8:専業農家率(専業農家数÷総農家数)の推移                                                                                                                   

地域類型

19700

19750

19800

19850

19900

19950

地域類型1

9.30

8.21

11.07

14.38

17.57

19.67

地域類型2

16.63

14.03

17.47

20.29

23.98

25.99

地域類型3

14.93

11.35

14.53

17.48

20.05

22.27

地域類型4

13.08

8.95

12.48

15.54

18.24

21.59

13.08

10.11

13.30

16.35

19.17

21.60

表-9:第1種兼業農家率の推移                                                                                                                      

地域類型

19700

19750

19800

19850

19900

19950

地域類型1

12.02

7.38

7.62

5.68

3.22

5.52

地域類型2

31.28

18.30

13.22

9.36

4.94

9.39

地域類型3

28.89

16.13

12.35

8.66

6.09

8.58

地域類型4

34.39

21.20

14.95

10.79

8.55

9.18

25.54

14.95

11.71

8.35

5.93

8.03

表-10:第2種兼業農家率の推移                                                                                                                    

地域類型

19700

19750

19800

19850

19900

1995

地域類型1

78.68

84.42

81.31

79.94

79.21

74.81

地域類型2

52.10

67.68

69.30

70.35

71.08

64.62

地域類型3

56.18

72.53

73.12

73.86

73.85

69.16

地域類型4

52.53

69.84

72.57

73.68

73.21

69.24

61.38

74.95

74.99

75.31

74.91

70.37

 農業衰退の著しい中での専業農家率の高まりは奇異な感じを与える。農家分解の道筋として、兼業深化によって脱農家し、そのなかでとどまった農家の専業化比率が高まったという位相で捉えることができるのではないか、とも思われるが明らかではない。

次に表-9によって地域類型別第1種兼業農家率の推移を検討したい。4つの地域とも1970年から95年にかけて減少している。地域類型234はほぼ類似の傾向を見せている。約30%から1990年の9%まで減少し、バブル崩壊、不況期の95年にかけて微増し約10%に戻っている。地域類型1は最も低いシェアで推移し、1970年の約12%から1990年の約3%まで減少し、バブル崩壊の影響で95年にかけて約6%に戻している。

最後に表-10に第2種兼業化の地域類型別推移を検討したい。ここでも地域類型1のみが異なった動きを示し、24のそれは類似のパターンで推移している。前者は1970年時点で79%が第2種兼業農家であり、他の50%台と比較すると、農家分解の度合いは質的に異なっているといえよう。1975年にはピークとなり、約84%に達し、そこから安定成長期、バブル期、その崩壊期を経て、1995年にかけて漸減しているが、1990から95年にかけて減少は加速し、約75%に低下している。地域類型1は都市的地域であり、農業経営が第2種兼業化によって維持される段階を1975年から脱し、農業の一方的な衰退、崩壊期に入ったと考える。地域類型2 ~41970年から75年にかけて速いスピードで増加し、1975年から1990年までじりじりと微増し70%水準を持続し、1995年にかけてやや減少している。

8.    地域類型別農業経営組織の推移

 次に以上のような農業経営資源の変動を背景に経営組織の変化の実態を明らかにしたい。

農業経営組織については、農業経営形態を単一経営、準単一複合経営、複合経営の3つに分けて定義しており、それに沿った年次変動の統計調査が公表されている。その定義によれば、単一経営とは、農産物販売金額1位部門の販売金額が全販売額の80%以上を占める農家をいう。準単一複合経営とはそれが6080%の農家であり、複合経営とはそれが60%以下の農家である。

 ここでは広島県について地域類型別に3つの農業経営組織の動向を統計的に検討してみたい。表-111980年から2000年にわたる地域類型別単一経営の構成比を示すグラフを掲げた。4つの地域とも単一経営が圧倒的な比重を占め、20年間にその比重は高まっている。表には19801985年は総農家概念の単一経営比率を、19902000年までを販売農家概念のそれを示している。したがって不連続性があるが、大きな傾向を把握することはできる。これによると地域類型2の単一経営構成が最も大きい。この地域は島嶼部柑橘地帯の1部を含み、果樹と稲作の単一経営が大きくなっていると考える。1980年の約85%から2000年の89%へと増加している。

表-11:農業経営組織別農家数単一経営の構成比の推移          

地域類型

19800

19850

19901

19951

20001

地域類型1

67.70

72.22

73.34

74.99

75.13

地域類型2

83.92

80.22

83.76

88.42

88.52

地域類型3

75.14

79.72

80.40

84.71

84.61

地域類型4

60.14

68.25

64.03

72.80

72.15

70.46

75.65

75.20

80.31

80.21

 第2位は地域類型3で、3位は地域類型14位は地域類型4の順位である。4つの地域類型全体では単一経営は、2000年には約70%から90%の範囲に分布し、1980年に比べて約10%高まっている。各地域における気候、風土の差、農業技術差などによって適作目に差が生ずることによる差異とみられる。 

表-12:農業経営組織別農家数準単一複合経営の構成比の推移

地域類型

19800

19850

19901

19951

20001

地域類型1

14.30

12.45

11.94

11.22

11.28

地域類型2

7.49

9.23

7.51

5.60

5.26

地域類型3

10.95

9.11

8.90

6.96

6.88

地域類型4

17.61

14.27

16.11

12.27

12.44

13.04

10.94

11.18

8.92

8.87

 表-12は地域類型別準単一複合経営の構成比の推移である。1980年には約7%から約18%の範囲で分布していたが、漸減して、2000年には約5%から12%までの分布に減少した。

表-13:農業経営組織別農家数複合経営の構成比の推移          

地域類型

19800

19850

19901

19951

20001

地域類型1

18.01

15.33

14.72

13.80

13.59

地域類型2

8.59

10.56

8.73

5.98

6.21

地域類型3

13.91

11.17

10.69

8.33

8.51

地域類型4

22.25

17.47

19.86

14.93

15.41

16.49

13.41

13.62

10.77

10.92

さらに表-13には地域類型別複合経営の推移を示した。これも4地域とも漸減しており、準単一複合経営形態よりも僅かに高い構成比率で推移している。

以上のように全体的な経営組織動向は、単一経営組織へと収斂する傾向を示していると考えられる。単一経営組織は、稲作、雑穀・いも類・豆類、麦類作、工芸作物、施設園芸、路地野菜、施設野菜、果樹類、花卉・花木、その他、酪農、肉牛、養豚、養鶏、その他畜産、養蚕等に分けて調査されている。農業生産は生き物を対象とする有機生産であり、複合経営の合理性がより高い性質を持っていると考えられる。しかし現実には単一経営へと収斂する傾向が見られるのは、経営組織の単純化による規模拡大とコスト低減の必要性という経営的側面の合理性の高まりを反映しているものと考えられる。そこで単一経営組織として比較的高い構成比を持つ作目、稲作、果樹、路地野菜、雑穀・イモ類・豆類、酪農を検討してみたい。それらについて単一経営組織農家全体を100とした作目別構成比を計算して示したい。最も高い構成を示す単一経営組織は稲作単一経営で、そこから始めたい。

表―14:地域類型別稲作単一経営の構成(単位%)           

地域類型

19800

19850

19901

19951

20001

地域類型1

51.51

51.90

63.45

64.57

64.91

地域類型2

62.75

65.46

78.83

81.66

81.35

地域類型3

71.44

72.78

80.28

82.36

82.50

地域類型4

89.15

88.37

90.49

92.70

91.59

70.77

71.90

80.05

82.36

82.42

 表―14は地域類型別稲作経営単一経営の単一経営組織農家全体に占める構成比である。計の値から単一経営に占める稲作単一経営の広島県平均が分かる。すなわち稲作単一経営は1980年の70.8%から始まり、徐々に増加して2000年には82.4%のシェアに高まっている。地域類型別に特徴を見れば、地域類型4の稲作単一経営の構成比が最も高く、1980年の89.2%から2000年には91.6%になっている。この表でも1990年以降は販売農家概念の構成比となって、それ以前の総農家概念の構成比とは定義を異にし、定義の不連続でやや高めに出ているようであるが、大まかな傾向はつかめるものと考えている。次いで地域類型3で高く、1980年の71.4%から2000年の82.5%に増加している。第3番目に地域類型2の構成比が高いが、1980年の62.8%から2000年の81.4%へと20%近く大幅に増加している。稲作単一経営の最も低いのは地域類型1であるが、ここでも1980年の51.5%から2000年の64.9%に増加している。

 稲作単一経営は中山間地域において最も構成が大きく、2000年で82.5%から91.6%にも達している。重大な問題であるが、中山間地域では、商品作物としては需要量が低下し、減反の対象となっている稲作への依存が最も高くなっているといえよう。

表―15:農業経営組織別農家数単一経営果樹類(単位%)            

地域類型

19800

19850

19901

19951

20001

地域類型1

25.05

22.84

15.79

15.13

15.99

地域類型2

34.11

32.06

17.98

16.23

16.09

地域類型3

20.99

19.03

13.63

12.53

12.42

地域類型4

0.71

0.75

0.67

0.76

0.90

18.20

16.33

11.22

10.22

10.27

 次に表―15によって果樹の単一経営を検討したい。果樹単一経営は全体では1980年の18.2%から2000年の10.3%へと減少している。地域類型2の構成比が最も高く、次いで地域類型1、34の順位である。地域類型2は稲作単一経営が2000年で81.4%を占めていたので、果樹の16.1%を加えれば、97.5%とこの2つの作物に集中して、単一経営を構成しているといっても良い状況である。またここでは果樹のような商品性の高い経営組織が地域類型3、4の中山間地域で比重が低くなっていることに注目すべきであろう。特に地域類型4での果樹単一経営の比率は1%にも満たない低さである。適作としての果樹が少ないことを示唆しているが、打開策を打ち出すことが重要であろう。

表―16:農業経営組織別農家数単一経営露地野菜(単位%)                   

地域類型

19800

19850

19901

19951

20001

地域類型1

14.81

15.66

12.87

11.73

10.76

地域類型2

0.45

0.36

0.07

0.29

0.33

地域類型3

1.56

1.90

1.11

1.00

1.02

地域類型4

1.73

1.50

1.01

0.99

1.57

4.14

4.35

2.77

2.43

2.34

 次に表-16に路地野菜単一経営を取り上げた。果樹に続いて構成の高い作目である。全体としてみると1980年から85年にやや増えて、2000年にかけて減少している。地域類型別では地域類型1で飛び抜けて高い。2000年で地域類型1における路地野菜単一経営の構成比は10.8%となっているが、その他の地域では1.6%以下と大きな差異を示している。都市的地域の市場条件を生かして他地域と比較にならない農家数が小規模な野菜栽培と販売を盛んに行っていると考えられる。

表―17:雑穀・いも類・豆類構成比(単位%)                                

 地域類型

19800

19850

19901

19951

20001

地域類型1

3.03

3.66

1.21

0.71

0.44

地域類型2

0.63

0.67

0.73

0.07

0.08

地域類型3

2.20

2.66

1.08

0.55

0.62

地域類型4

1.26

1.68

0.43

0.37

0.20

2.13

2.59

0.94

0.51

0.48

 路地野菜に次いで高い構成は表―17に示す雑穀・いも類・豆類の単一経営である。しかし全体的に衰退をたどっている。198085年の段階では地域類型13%台を維持していたが、2000年にはわずか0.44%へと減少している。地域類型34でも198085年には1.3%から2.7%を維持していたが2000年には1%以下へと減少し、全滅状態に陥っている。

畜産部門では酪農、肉牛、養豚、養鶏単一経営があるが、表―18に示す最も構成比の高い酪農を取り上げてみよう。

表―18:農業経営組織別農家数単一経営酪農(単位%)              

地域類型

19800

19850

19901

19951

20001

地域類型1

0.35

0.27

0.49

0.31

0.20

地域類型2

0.45

0.36

0.46

0.36

0.41

地域類型3

0.59

0.62

0.79

0.68

0.63

地域類型4

1.20

1.23

1.33

1.00

0.88

0.66

0.67

0.85

0.70

0.62

 全体的には1980年から1990年にかけて漸増し、0.66%から0.85%となったが、そこから漸減して0.62%になっている。地域類型3、4の中山間地域で相対的にやや高くなっている。これは肉牛についても同様の傾向である。環境が都市化してゆけば畜産経営の立地が困難になり、減少を余儀なくされるといえよう。

 以上のように単一経営の農業経営組織は作目によって地域類型間にかなり異なった動向を示している。しかし稲作単一経営への集中が大きく、ほとんど独占的なシェアを占めているのが特徴であった。2000年時点で地域類型1の稲作単一経営は64.9%、その他の地域では80%以上に達していた。地域類型1では都市化、市場経済化の刺激や動機付けが多様なニーズに基づいて発信され、稲作以外の農作物への取り組みが、農民分解による離農と小規模化を伴いながら行われ、他地域とは異なった取り組みとなっていることが伺われる。

9.    まとめ

 農家数の激減は、例えば表-6に示した集落当り農家数の場合、単利計算で農家数が壊滅する年数を計算すれば、1970年から地域類型1が筆頭で、約76年後という答えに現れている。最も遅い地域累計3483年後である。神武天皇以来千年以上に渡って継続してきた広島県農業がかつてない危機にさらされていると考える。これにともなう、農業就業人口の質的低下、農地の激減、農業経営組織の単一経営、特に稲単一経営への跛行的な集積等が見られた。単一経営のなかで相対的に有望な果樹、路地野菜、雑穀・いも類・豆類、畜産部門の酪農等を検討したが、いずれも経営農家戸数は減少し、衰退していると考えられる。明治維新を期に導入された市場システムのフィルタリングが広島県農業にとっては淘汰機能として作用した。

 また農民層の分解においても地域類型11975年をピークに全般的落層の段階に落ち込み、他の地域類型でも停滞傾向が色濃く現れており、落層化や小規模層への滞留傾向が強い。点的には2ha以上層の増加傾向が見られるが、これが将来の農業経営の展開方向の象徴だとは到底いえないであろう。

 我が国の歴史的源流をなし、よしにつけ悪しきにつけて伝統の意識すなわち、宗教、自然観、倫理感、社会規範等々のエートス(ある民族や社会集団にゆきわたっている道徳的な慣習・雰囲気。・・・広辞苑)の源泉であった農業集落はこれまでの我が国の社会・経済の形成要因として、細胞的な役割を果たしてきた。しかしこれが農業の衰退によって崩壊の事態を迎えつつある。新たな農業生産組織に代替することによって農業生産の経済合理性を復活させる試みが進んでいる。法人経営、会社経営、集落営農等々さまざまな選択肢が試みられている。農業集落の経済合理性の破綻、ことに集落当りの経営耕地面積の狭小はコスト低減の障害として立ち現れている。かつての自給的家族小農経営の狭小規模では厳しい国際的な競争のもとではひとたまりもない。経済合理性の必要が急襲している。しかし社会的存在としての農業集落の側面はそれをなかなか受け入れられない。この矛盾とその中での苦しみが農業集落の経済的変革に附随して、農家を悩ませていると考える。大きなシステム転換の時代に差し掛かっているのか、はやくもかなりの転換が成し遂げられたのか定かでない。

 しかし数千年も継続してきた、日本人の心の故郷ともいえる農業集落とは何者なのか欧米の共同体とどのような差異を持っているのか、日本文化の形成者としてどのようなシステムの原理で生きてきたのか等について分析することなしに、換言すればわれわれがおのれ自身を知ることなしに、システム転換の方向を占うことができるのだろうか。

 

 

10.  GIS(地理情報システム)による実態の確認

 以上のような分析を視覚的なデータで確認し、よりリアルに実態を把握するためにGISによっていくつかの分析項目の地図情報を掲載したい。これまで分析してきた諸項目や関連する項目の時系列の最終時点(多くは2000年)のGISによる分析結果を提示し、実態分析を補足したいのである。この補足の意味は以下のようである。これまでは地域類型別に農業経済に関連する諸項目の平均をとらえた時系列動向を分析した。しかしデータは平均値のまわりにばらついていて、現象の中心からそれた農業実態を含んでいるが、それについては説明を捨象したままである。ここではその平均からそれた部分について取り上げ、平均よりはるかに劣る深刻な事態に陥っている農業集落や逆に優れた農業集落を明らかにしてみたいのである。このような作業によって実態分析はよりリアルなものになることが期待されるからである。

 図-8は広島県の農業集落地図である。4,748集落が網の目のようにびっしりと分布していた。農業集落は千年以上にもわたって引き続いてきた歴史的な継承であるが、いまや崩壊の危機にひんしている。これに代わって集落営農等さまざまな形態の法人化、有限会社等が表れている。家族経営形態の伝統的な農業経営が、窮地に追い込まれ、農業集落の崩壊が現象化している。システムの転換が次第に広がりつつあるといえよう。

 しかし農業集落が何者でどのような経済、社会的な特徴を持ち、どのような転換を遂げようとしているのかは十分明らかにされているわけではない。法人化や市民農園形態等が新たなシステムとして代替できるかどうかは、長い歴史的産物の結果としての農業集落の現在の矛盾を科学的に解明しなければ、理論的に明らかではなく、ただ新たな組織形態を対置させているに過ぎない。私の知る限りでは、農業集落をわが国のみならずアジアにおける特殊歴史的現象としてとらえ、西欧の共同体の自由原理と対比しつつ、国際的な視野で掘り下げた労作に吉本隆明著「アジア的ということ」(弓立社)がある。これによって得られた理論的視野が私の分析の背後に潜在している。逆にいえば歴史的産物としての農業集落の分析に不足があるのでないかという危惧をいだくものである。ここでは残念ながらそのような理論的分析をおこなえない。その崩壊現象の実態を統計的に分析するところにとどまっている。

図-8:広島県における農業集落地図(4,748集落)

(1)     広島県における4つの地域類型

 既にみたように広島県は、農業集落を単位、細胞として、4つの地域類型 (地域類型1(都市的地域)、地域類型2(平地農業地域)、地域類型3(中間農業地域)、地域類型4(山間農業地域)) に区分され、地域類型別に農業の実態を把握することができ、各類型の特徴を把握しながら、広島県の農業の全貌に迫ることができる。

 最初にGISを用いてこの4つの地域類型を地図上で再現し、地域類型34、つまり中山間地域の相対的位置を確認しておこう。かなり入り組んだ複雑な区分で、このような区分が有効なのかという疑問も浮かぶが、農水省統計の定義に基づくこの類型に従って、実態を見てゆきたい。

図-9:広島県における4つの地域類型

図-9に4つの地帯区分を色分けして示した。凡例には、地域類型の色分けと、各類型に属する農業集落数が示されている。

地図の空白の部分は農業集落が崩壊してデータがない場合、地図データと統計データとのマッチングで何らかのミスが発生した場合である。後者は極力除去するよう注意を払ったので、多くは前者の原因によるものと推測する。

これによると地域類型1は、瀬戸内沿岸部、島嶼部に分布し、地域類型2は島嶼部の一部、沿岸部、内陸部などに分散して分布している。地域類型3は島嶼部のかなりの部分、瀬戸内沿岸部、内陸中間部と山間部の一部と広範な分布を示している。地域類型4は県境に沿って主に山間部に分布している。それぞれの地理的な立地に対応して農業生産の特徴が生まれ、中山間地域の相対的な経済的性格が把握できるといえよう。

(2)     経営耕地面積の実態

図-10:広島県における地域類型別1農業集落当り経営耕地面積の推移

すでに「6.地域類型別経営耕地規模農家数の推移と農業の動向」においてこの間の農民層分解動向として分析したように、個別農家1戸当たりの経営耕地面積は地域全体に規模零細化、規模縮小傾向を示しており、それに対して規模拡大の動きはほとんど不発の状態で、農業全体の著しい衰退傾向を示していた。この分析と合わせてここでの1農業集落当り経営耕地面積の動向を分析しなければならない。

始めに経営耕地面積の地域類型別動向を概観しておきたい。図-10のグラフに4つの地域類型の1農業集落当り経営耕地面積の推移を示した。この間4つの地域類型とも1農業集落当り経営耕地面積を急速に縮小している。中でも地域類型1が最も小さい経営規模であるが、速いスピードで減少し1970年の15haから2000年の5haまで激減している。

4つの地域類型のうち地域類型21農業集落当り経営耕地面積が最も大きく、2000年で約20haである。

1)       地域類型1

-19: 地域類型1における1農業集落あたり経営耕地面積の推移(単位:a

 

19700

19750

19800

19850

19900

19950

20000

データ数

972

971

972

1017

1017

1017

1020

合計

1,505,392

1,183,776

1,055,308

957,082

803,822

694,020

583,458

平均

1548.8

1219.1

1085.7

941.1

790.4

682.4

572.0

最大

19,370

19,246

17,723

15,438

11,238

8,774

6,624

最小

160

33

13

38

18

32

48

標準偏差

1416.26

1261.81

1170.52

1023.29

855.61

745.82

651.24

変動係数

91.44

103.50

107.81

108.74

108.25

109.29

113.85

-19は地域類型1における1農業集落当たり経営耕地面積の19702000年の統計的な推移を示したものである。すでに示した通り、地域類型1における1農業集落当り平均経営耕地面積は1970年の約15haから2000年の約5haへと減少している。また各年次の標準偏差、変動係数を求めた。変動は微増しているが約100%のあたりで比較的安定している。1農業集落当りの経営耕地面積の最大と最少の開きはかなり大きいが、年次の推移とともにそれが開いているとは言えない。

地域類型1では農業集落数が1980年以降増えているが、合併等の発生によるものか、その理由は分からない。

ここでは表の時系列の終点に当る2000年時点の1農業集落当り経営耕地面積の実態をGIS分析として表示してみたい。

-11:地域類型1における1農業集落当り経営耕地面積の実態(2000)

結果は図-11に示した通りであるが、先の表に示したように2000年時点のこの地域における1農業集落当り経営耕地面積は平均5.7ha、最大約66ha~最少0.4haの広い範囲に分布している。ここでGISの検索機能で最大規模の集落と最小規模の集落がどこなのか抽出してみたい。以下の2集落が最大の経営耕地規模を有し、60ha以上である。最大規模も先の表19で分かるように1970年以降次第に小さくなっている。

-20:地域類型1における最大規模の2集落 

市区町村名

旧市区町村名

集落名

面積:a

向島町

向島西村

津部田

6,624

因島市

重井村

ヘ組

6,140

農業集落営農の基準として採用された20ha以上61.4ha以下の集落を求めてみると、表21のように31集落が抽出できる。

-21:地域類型1における1農業集落あたり経営耕地規模20ha61.4haの集落

番号

市区町村名

旧市区町村名

集落名

面積:a

1

三次市

十日市町

畠敷4

2,656

2

三次市

十日市町

四拾貫町

2,324

3

三次市

十日市町

山家

2,010

4

神辺町

御野村

上御領下

2,053

5

神辺町

御野村

上御領中

2,637

6

神辺町

湯田村

徳田川西

3,388

7

福山市

駅家町

中島

2,055

8

東広島市

川上村

2,748

9

東広島市

川上村

中組

3,020

10

東広島市

川上村

正力

4,933

11

東広島市

川上村

上組

2,336

12

東広島市

川上村

米満

2,572

13

東広島市

西条町

後谷

2,006

14

東広島市

西条町

板橋1

2,326

15

東広島市

西条町

前谷1

2,247

16

尾道市

尾道市

山波

3,810

17

佐伯区

観音村2-1

倉重

2,197

18

向島町

向島西村

江奥

3,156

19

向島町

向島西村

道越

2,494

20

熊野町

熊野町

初神

2,829

21

熊野町

熊野町

新宮

5,080

22

黒瀬町

中黒瀬村

大多田

4,688

23

熊野町

熊野町

城之堀

2,464

24

熊野町

熊野町

萩原

4,116

25

黒瀬町

中黒瀬村

楢原

2,651

26

因島市

重井村

ト組

2,199

27

黒瀬町

中黒瀬村

丸山

3,456

28

因島市

重井村

ロ組

2,605

29

熊野町

熊野町

呉地

2,607

30

黒瀬町

中黒瀬村

菅田

2,667

31

黒瀬町

中黒瀬村

市飯田

2,816

32

呉市

昭和村

苗代

4,236

33

呉市

昭和村

栃原

2,637

これらわずかの農業集落は、可能性を持っている。しかし大部分は経営耕地規模20ha以下の集落である。最も小さい経営耕地規模階層は地図の凡例で分かるように、0.4ha1.3haで、この階層に最も多くの集落が含まれる。8ha以下の経営耕地規模の農業集落数は80178%)に上り、小規模な農業集落が圧倒的に多い。

2)       地域類型2

 ここでも地域類型1と同様に時系列データを表-22として掲げた。平均1農業集落当り経営耕地面積は、1970年の約32ha(100)から2000年の約21ha(65.6)へと減少している。4つの地域類型の中で2000年の1農業集落当り平均経営耕地面積は最大である。また時系列の変動係数は、地域類型1と比べて、60%から2000年にかけて50%へと小さくなっていて、格差は低下している。先の地域類型1とは対照的な動向で、経営耕地面積は減少してはいるが、各時点で集落間の変動の少ない安定的な経営耕地面積である。

-22:地域類型2における1農業集落あたり経営耕地面積の推移(単位:a       

 

19700

19750

19800

19850

19900

19950

20000

データ数

71

71

71

71

71

71

71

合計

225,560

214,533

207,201

188,015

176,009

156,862

146,060

平均

3,176.9

3,021.6

2,918.3

2,648.1

2,479.0

2,209.3

2,057.2

最大

11,400

10,538

9,817

7,605

5,893

4,788

4,269

最小

970

1,014

988

635

489

405

336

標準偏差

1,855.39

1,825.91

1,676.52

1,397.84

1,186.79

1,069.08

1,017.92

変動係数

58.40

60.43

57.45

52.79

47.87

48.39

49.48

 ここでも時系列の最終時点の2000年の1農業集落当り経営耕地面積を図-12の地図により、GIS分析を行ってみたい。地域類型2はデータ数が71と少なく、データの信頼性がやや低いと思われるが、変動は少ないので相対的に似通った経営耕地面積の農業集落が集まっているといえよう。

 ここでもGIS検索によって、経営耕地規模の大きい農業集落をリストアップしてみよう。最も経営耕地規模の大きいのは34.9ha42.7haの農業集落である。これらの農業集落では単独で集落営農組織の可能な規模を備えているといえよう。

-23:地域類型2における1農業集落当り経営耕地面積34.9ha42.7haの集落

番号

市区町村名

旧市区町村名

集落名

面積:a

1

三次市

神杉村

妙眼寺

3504

2

久井町

羽和泉村

泉下

4078

3

久井町

羽和泉村

泉上

3693

4

久井町

羽和泉村

和草南

3603

5

東広島市

造賀村

大谷

3645

6

久井町

羽和泉村

沖重宗

4269

7

東広島市

造賀村

有田

3699

8

大崎町

西野村

大串

3686

9

大崎町

西野村

大串

3686

10

大崎町

西野村

原田

4095

11

大崎町

西野村

大串

3686

-12:地域類型2における1農業集落当り経営耕地面積の分布(2000)

3)       地域類型3

 ここでも1970年から2000年までの時系列データを表-24に示した。平均値の推移を見れば、1農業集落当り経営耕地面積は、1970年の19.6haから2000年の11.7haまで、地域類型1ほどではないが、かなりの減少を示している。

-24:地域類型3における1農業集落あたり経営耕地面積の推移(単位:a            

 

19700

19750

19800

19850

19900

19950

20000

データ数

2,382

2,383

2,383

2,388

2,390

2,390

2,391

合計

4,680,346

4,164,965

3,996,134

3,761,704

3,409,671

3,089,974

2,807,199

平均

1,964.9

1,747.8

1,676.9

1,575.3

1,426.6

1,292.9

1,174.1

最大

59,700

56,782

55,331

47,266

40,977

36,102

31,608

最小

220

115

18

60

38

25

66

標準偏差

1,868.16

1,795.39

1,726.51

1,542.43

1,372.74

1,241.91

1,153.49

変動係数

95.08

102.72

102.96

97.92

96.22

96.06

98.25

-13:地域類型3における1農業集落当り経営耕地面積の分布(2000)

 各時点の変動係数は100%前後で推移しており、地域類型1のそれとほぼ同じである。

 図-13は時系列の最終点2000年におけるGIS分析のマップである。最大面積の経営耕地面積を持った集落は、豊町の大長村、大長集落の316haで、特大の規模である。30ha以上の経営耕地の農業集落は、検索によると118集落である。小規模なものでは経営耕地面積が1ha以下で、22集落があげられる。地域類型3の場合表-23に示すように農業集落数はわずかに増えているのが特徴であるが、地域類型1と同様理由は不明である。

4)       地域類型4

-25:地域類型4における1農業集落あたり経営耕地面積の推移(単位:a              

 

19700

19750

19800

19850

19900

19950

20000

データ数

1,262

1,259

1,263

1,263

1,266

1,266

1,266

合計

2,013,897

1,744,969

1,665,091

1,589,802

1,468,785

1,369,455

1,222,773

平均

1,595.8

1,386.0

1,318.4

1,258.8

1,160.2

1,081.7

965.9

最大

8,130

7,473

7,234

7,835

7,170

6,698

8,896

最小

60

144

130

85

52

19

76

標準偏差

993.74

934.06

918.16

941.90

888.64

872.08

838.85

変動係数

62.27

67.39

69.64

74.83

76.60

80.62

86.85

表-25は地域類型4の時系列データである。地域類型3よりもやや小さい経営耕地面積であるが、それによく似たパターンで推移している。1970年からの年次推移にともなう変動は比較的小さく、経営耕地面積規模の集落間変動は小さい。しかし経営耕地面積はかなりの勢いで減少している。2000年の1農業集落当り経営耕地面積の最大は約89haで、対応する地域類型3316haに比較して小規模である。平均値で比較しても地域類型41農業集落当り経営耕地面積は約9.6haで、対応する地域類型3のそれは11.7haに比べてやや小さくなっている。

-14:地域類型4における1農業集落当り経営耕地面積の分布(2000)

 図-14の地図をもとに、GIS検索によって1農業集落当り経営耕地面30ha以上の農業集落を抽出すると、37集落であった。またそれが40ha以上の農業集落は表-26のように17集落であった。地図の凡例によれば、1農業集落当り経営耕地面平均9.66haであるが、それ以上の規模よりそれ以下の規模の農業集落数がやや多くなっていると考えられる。

-26:地域類型4における1農業集落当り経営耕地面積40ha以上の諸集落

番号

市区町村名

旧市区町村名

集落名

面積:a

1

高野町

上高野山村

篠原

4,398

2

高野町

下高野山村

上里原

4,217

3

高野町

上高野山村

水谷

4,353

4

高野町

下高野山村

岡大内

5,778

5

高野町

上高野山村

新市在下

4,374

6

高野町

下高野山村

高暮

5,128

7

高野町

下高野山村

下門田

6,343

8

高野町

下高野山村

奥門田

6,502

9

東城町

小奴可村

加谷

4,869

10

比和町

比和町

小和田南

4,400

11

西城町

西城町

4,136

12

芸北町

中野村

才乙

5,156

13

大朝町

大朝町

女ケ原

4,191

14

三和町

来見村

大矢

8,896

15

吉田町

丹比村

中多治比

5,432

16

吉田町

丹比村

上多治比

4,897

17

吉田町

丹比村

相合

4,302

 1農業集落当り経営耕地面の最も低い方は、0.72.3ha110集落に上る。これらの集落には、もはや農業集落として農業生産上の共同自治的な組織的対応は困難であると思われる。数戸の農家が細々と農業を営む姿が想像される。

(3)     耕作放棄地率の実態

 次に経営耕地面積の増減と裏腹の関係にある耕作放棄地率について、GISを用いて実態を明らかにしたい。全体の見通しを良くするために、地域類型別の1農業集落当り耕作放棄地率の推移を示すグラフを図-15に掲げておきたい。

-15:地域類型別耕作放棄地率の推移

地域類型1が最も高く、高まるスピードも速い。地域類型2が最も低いが、上がってゆくスピードはあまり変わらないか、やや低い。中山間地域である地域類型34がその中間にある。

1)       地域類型1

-16:地域類型1における1農業集落当り耕作放棄地率の分布(2000)

耕作放棄地率は、1970年を起点にして1975年以降について2000年まで、耕作放棄地率=耕作放棄地面積÷(所有耕地面積+耕作放棄地面積)、という式で定義している。またここでいう所有耕地面積とは、所有耕地面積=経営耕地面積-借り入れ耕地面積+貸付耕地面積、と定義されている。この式から、経営耕地面積=所有耕地面積+借入耕地面積-貸付耕地面積、となる。したがって耕作放棄地面積の発生によって所有面積は減少し、借り入れ耕地面積を増やすか貸付耕地面積を減らさない限り、経営耕地面積は減少する、という関連にある。

-27:地域類型1における1農業集落当り耕作放棄地率の推移  

項目

19750

19800

19850

19900

19950

20000

データ数

725

753

760

873

789

917

平均値

7.20

7.22

8.73

12.57

13.14

15.22

最大

55.1

65.8

55.2

55.5

67.7

61.9

最小

0

0

0.1

0.1

0.1

0.2

標準偏差

7.67

7.73

9.30

11.52

12.33

12.51

 ここでも表-271農業集落当り耕作放棄地率の時系列推移を示したうえで、最終時点2000年のGIS分析を行いたい。表によれば、地域類型1では耕作放棄地率は1975年の7.2%から漸増し、2000年には15.22%にまで高まっている。またそれとともに標準偏差が高くなり、農業集落間の耕作放棄地率のばらつきが大きくなっている。

さて図-172000年時点の地域類型1における1農業集落当り耕作放棄地率の分布地図を示した。耕作放棄地率は、おおよそ062%の範囲に分布していることが分かる。まずは耕作放棄地率の高い集落を耕作放棄地率50%以上と考えてGIS検索により、表-2814集落を抽出した。これらの諸集落は、農業生産の経済性が低く、限界にまで到達している危機的なところ、限界集落といえるであろう。

-28:地域類型1における耕作放棄地率50%以上の諸集落

市町村名

旧市区町村名

集落名

耕作放棄地率

新市町

新市町

新市南の2

51.9

福山市

春日村

宇山上下

59.1

福山市

藤江村

五番組

55

福山市

藤江村

六番組

51.6

尾道市

向島東村

森金

52.7

府中町

府中町

八幡

55.2

南区

南区(広島市4-3)

霞町,出汐町,旭町

50

三原市

三原市

登町

50.7

坂町

坂町

中村

51.3

因島市

土生町

江ノ内

52.2

呉市

呉市

宮上一

61.9

呉市

呉市

広東第6

50.6

呉市

呉市

西神一

59

音戸町

音戸町

52.9

 逆に耕作放棄地率の低い諸集落を地図の凡例の0 ~0.6%とすると102集落(11.1%%)が該当する。分量が多いのでこれらの農業生産の優良と考えられる集落のリストアップは省略したい。

2)       地域類型2

-29:地域類型2における1農業集落当り耕作放棄地率の推移  

項目

19750

19800

19850

19900

19950

20000

データ数

47

50

50

63

62

69

平均値

2.19

3.07

4.67

6.82

8.00

8.81

最大

10.1

13.3

24.3

44.9

38

42.2

最小

0

0.1

0.1

0.1

0.1

0.2

標準偏差

2.11

3.50

6.84

9.41

10.17

9.16

 表-29によって19752000年までの1農業集落当り耕作放棄地率の推移を示した。1975年の2.2%から2000年の8.8%まで漸増している。地域類型1に比較するとやや緩やかであるが、かなりの趨勢で伸びている。標準偏差によって変動の大きさを推測すると、地域類型2は各年次で、次第に高くなっているが、地域類型1に比較して小さく、集落間の耕作放棄地率の差は小さい。

-17:地域類型2における1農業集落当り耕作放棄地率の分布(2000)

 また耕作放棄地率が50%を超える限界集落は不在で、健在ぶりを示している。

3)       地域類型3

-30:地域類型3における1農業集落当り耕作放棄地率の推移  

項目

19750

19800

19850

19900

19950

20000

データ数

1719

1872

1819

2101

2044

2288

平均値

5.73

6.27

6.72

9.90

10.32

12.78

最大

57

62.6

53.8

64.6

68.6

69.4

最小

0

0

0

0

0

0.1

標準偏差

7.47

8.29

8.50

10.93

11.48

12.37

-18:地域類型3における1農業集落当り耕作放棄地率の分布(2000)

 表-30によって地域類型3の時系列データをみると、1農業集落当り耕作放棄地率は1975年の5.7%から2000年の12.8%まで上がっている。それにつれて各集落間の標準偏差は高まり、農業集落間の変動が大きくなっている。耕作放棄地率の集落間差は広がっているといえよう。

 図-18によると瀬戸内沿岸部、島嶼部等に耕作放棄地率の高い集落があり、内陸部は相対的に低くなっているように思われる。

 ここではGIS検索によって表-31に示すように、耕作放棄地率50%以上の諸集落を抽出した。これらの集落は農業生産の経済性を確保できず、衰退色濃いものであり、早急の支援を要するものと考えられる。

-31:地域類型3における耕作放棄地率50%以上の諸集落

市町村名

旧市区町村名

集落名

耕作放棄地率

三次市

粟屋村

後大平

54.7

油木町

仙養村

上野谷

69.4

福山市

広瀬村

菅町

66.4

福山市

服部村

百谷,平林

50.8

府中市

岩谷村

上山本谷

64.5

府中市

下川辺村

河面上

56.7

八千代町

根野村

余井

61.7

安佐北区

志屋村

深草,横谷

58.5

福山市

服部村

刈山

50

安佐北区

高南村

栃谷

53.8

御調町

菅野村

前前後

60.8

安芸区

畑賀村

上水谷

51.9

竹原市

下野町

宿根

53

向島町

立花村

沖条

55.9

内海町

田島村

51.6

内海町

横島村

3区

56.1

内海町

横島村

7区

60.3

因島市

中庄村

釜寺

54.8

竹原市

吉名村

東条

50.4

東野町

東野町

生野島

50.7

東野町

東野町

生野島

50.7

東野町

東野町

白水

51.6

東野町

東野町

白水

51.6

沖美町

三高村

高祖

52.1

沖美町

三高村

大附

54.9

能美町

高田村

58.3

能美町

高田村

間所

50.7

能美町

中村

大後

54.8

大柿町

飛渡瀬村

寺前障子

52

蒲刈町

上蒲刈島村

田戸

52.3

大柿町

大柿町

峯ヶ迫

50

大柿町

大柿町

坊地

50.3

大柿町

大柿町

52.2

大柿町

大柿町

52

大柿町

深江村

向井

57.7

倉橋町

倉橋町

長谷

57.6

倉橋町

倉橋町

須川

61

4)       地域類型4

-32:地域類型4における1農業集落当り耕作放棄地率の推移  

項目

19750

19800

19850

19900

19950

20000

データ数

983

1028

965

1113

1042

1205

平均値

5.93

5.39

5.54

8.89

8.79

12.10

最大

55

56.2

58.8

65.1

67.8

62.4

最小

0

0

0

0

0.1

0.1

標準偏差

6.60

6.72

7.00

9.85

9.59

10.63

-19:地域類型4における1農業集落当り耕作放棄地率の分布(2000)

 表-32に地域類型41農業集落当り耕作放棄地率の推移を示した。地域類型3に比較するとやや低い水準を維持しながら次第に高まっている。またそれにつれて標準偏差は次第に高くなっており、他の地域類型同様に集落間の格差が広がっている。

 図-19GISによる2000年の1農業集落当り耕作放棄地率の色分けマップを示した。ここでも先に行ったと同様、表-33に耕作放棄地率50%以上の農業生産限界集落を抽出した。 

-33:地域類型4における耕作放棄地率50%以上の諸集落

市町村名

旧市区町村名

集落名

耕作放棄地率

高宮町

川根村

下竹貞

52.2

豊松村

豊松村

西山形

52.1

福山市

山野村

大谷下

53.3

府中市

大正村

箱田

58.2

府中市

大正村

空木前

62.4

府中市

諸田村2-2

北諸毛二部

50.3

安佐北区

久地村

名原

51.1

安芸区

熊野跡村

奥伯耆

50.4

(4)     農家人口高齢化と労働力の実態

1)       農家人口

1)-1          地域類型1の農家人口高齢化

次に農業経営資源として最も重要な農業労働力の高齢化、質の変化についてGIS分析を補足したい。はじめに農業労働力の母体となる農家人口の高齢化の動向を把握し、ついで農業就業人口等の農業労働力の実態について分析してゆきたい。

図-20:男女別65歳以上農家構成の推移

図-20によって1975年から2000年までの男女別65才以上の構成比の推移を示した。地域類型4の構成比が男女とも高く、他との開きは2000年にかけて開いている。次いで地域類型3が高くなっている。男女とも地域類型1、2の間にはあまり差は見られず、高齢化率が最も低い。男子では1975年の約1518%の水準から2000年の3136%の水準までかなりのスピードで高齢化している。女子では男子よりもやや高く、約17%19%水準から3541%の水準まで高齢化している。男女とも1990年から高齢化のスピードは上がっている。

-21:地域類型別65歳以上農家人口高齢化率の実態(2000)

図-212000年の実態を地域類型別に65歳以上農家人口高齢化率の実態を示したものである。各地域類型とも20 ~40%の水準を中心にかなりの範囲に分散していることが分かる。50%以上のいわゆる限界的な集落がかなり含まれていることが明らかである。そのなかで地域類型4の農家人口が相対的に高齢化していることを確認できる。

 

 

図-22:地域類型1における1農業集落当り農家人口高齢化の分布(2000)

図-22に地域類型1の農業集落を65歳以上農家人口率別に色分けした地図を示した。先にみたように4つの地域類型の中では農家人口高齢化が最も低い地域である。ここでも検索機能を用いて特徴をもった農業集落を抽出してみたい。

農家人口高齢化が50%以上の限界的な諸集落は63集落に上る。ここでは60%以上の21集落をリストアップしておきたい。

-34地域類型1の農家人口高齢化率60%以上の諸集落

市町村名

旧市区町村名

集落名

高齢化率

三次市

十日市町

上原2組

7

三次市

十日市町

下本町

8

安佐北区

日浦村

筒瀬7,8区

7

安佐南区

八木村

山手

7

福山市

松永町

西町

7

福山市

今津町

7

東区

温品村

菰口

7

西区

広島市4-4

高須

8

三原市

三原市

登町

8

竹原市

忠海町

脇町,浜町外4

7

因島市

田熊町

金山14区

7

因島市

田熊町

占田7区

8

因島市

三庄町

6区

8

呉市

呉市

広西第2

7

木江町

木江町

中央

8

木江町

木江町

元町

8

呉市

呉市

広東第5

8

呉市

呉市

坪内二

7

大竹市

大竹町

油見丘農区

7

音戸町

音戸町

北隠渡

7

音戸町

音戸町

高須

7

注)高齢化率、の列は凡例に示されているものであるが、コード番号で7=6070%8=7080%である。

逆に高齢化率の低い諸集落を抽出すると以下の表-35の通りである。これらは、さらに農業就業人口等の農業労働力を検討しなければ分からないが、農業生産が経済的に高いレベルの農業集落である可能性が高い。

-35:地域類型1の農家人口高齢化率1020%以上の諸集落

市町村名

旧市区町村名

集落名

高齢化率

府中市

国府村

第5農区

2

府中市

国府村

第11農区

2

福山市

坪生村

峠,青木

2

安佐北区

可部町

上原上組

2

福山市

大津野村

横道西東

2

福山市

大津野村

東谷

2

安佐北区

可部町

中島宮組

2

福山市

福山市

掛木

1

尾道市

美ノ郷村

猪子迫

2

尾道市

美ノ郷村

津田

2

尾道市

美ノ郷村

阿吹

2

佐伯区

石内村

笹利

2

尾道市

高須村2-1

横浜

2

東区

福木村

大藪

2

東区

福木村

樋柴

2

東広島市

西条町

藤田

2

福山市

鞆町

西中

2

東広島市

西条町

上城

2

安芸区

中野村

峠地

2

佐伯区

八幡村

寺田

2

安芸区

中野村

成岡

2

沼隈町

千年村

土生

2

佐伯区

八幡村

中地

2

呉市

呉市

2

呉市

呉市

西神二

2

注)高齢化率、の列は地図の凡例に示されているものであるが、コード番号で1=10%未満、2=1020%である。

 

1)-2          地域類型2の農家人口高齢化

-23:地域類型1における1農業集落当り農家人口高齢化の分布(2000)

-36:地域類型2の農家人口高齢化率60%以上の諸集落

市町村名

旧市区町村名

集落名

高齢化率

大崎町

中野村

向山

6

大崎町

中野村

長島

8

大崎町

中野村

向山

6

大崎町

中野村

原下

6

大崎町

西野村

瀬井

6

)-34と同様、高齢化率の列は、地図の凡例に示してあるように、6=50 ~60%、8=7080%を表す。

 

 図-23に基づき、表-36に農家人口高齢化率60%以上の諸集落を抽出した。いずれも限界集落と考えられる。

 逆に表-37には高齢化率の低い農家人口高齢化率2030%の諸集落を抽出した。

-37:地域類型2の農家人口高齢化率2030%以上の諸集落

市町村名

旧市区町村名

集落名

高齢化率

三次市

神杉村

来源

3

三次市

神杉村

山手

3

三次市

神杉村

郷下

3

三次市

神杉村

善徳寺

3

三次市

神杉村

郷上

3

三次市

神杉村

泉水

3

久井町

羽和泉村

泉下

3

久井町

羽和泉村

和草南

3

久井町

羽和泉村

市谷東

3

久井町

羽和泉村

黒郷上

3

久井町

羽和泉村

3

久井町

羽和泉村

黒郷下

3

東広島市

造賀村

天王,堂条

3

東広島市

造賀村

竹則

3

東広島市

造賀村

大谷

3

東広島市

造賀村

亀岡

3

東広島市

造賀村

松行

3

東広島市

造賀村

上山根

3

東広島市

造賀村

恋文字,久保

3

三原市

沼田東村

平木谷

3

三原市

沼田東村

平佐

3

三原市

沼田東村

近広

3

三原市

沼田東村

末広

3

三原市

沼田東村

両名

3

三原市

沼田東村

生田

3

三原市

沼田東村

東末光

3

三原市

沼田東村

釜山第一

3

三原市

沼田東村

上末光

3

大竹市

友和村2-2

松ケ原

3

大崎町

中野村

片浜

3

)-35と同様、高齢化率の列は、地図の凡例に示してあるように、3=20 ~30%を表す。

1)-3          地域類型3の農家人口高齢化

-24:地域類型3における1農業集落当り農家人口高齢化の分布(2000)

 地域類型3は農業集落数が最も多く、農家人口高齢化率は3040%の最頻値を挟んで両極にばらついている。そこで図-24の地図に基づいて超限界集落ともいうべき80%以上の7集落を表-38にリストアップした。

-38:地域類型2の農家人口高齢化率80%以上の諸集落

市町村名

旧市区町村名

集落名

高齢化率

高宮町

船佐村2-1

所木

9

三次市

粟屋村

後大平

10

河内町

入野村

中倉

10

尾道市

百島村

9

三原市

鷺浦村

小佐木

9

大柿町

飛渡瀬村

沖流

9

豊町

久友村

三角

9

)-36と同様、高齢化率の列は、地図の凡例に示してあるように、9=80 ~90%、10=90%~を表す。

 逆に農家人口高齢化率1020%の若々しい農業集落数は51集落あることが、地図上に示されている。それらをリストアップすれば、表-39となる。

-39:地域類型2の農家人口高齢化率1020%以上の諸集落

市町村名

旧市区町村名

集落名

耕作放棄地率

東城町

東城町

陰地上

2

庄原市

高村

段,正本

2

庄原市

山内東村

掛田下

2

東城町

久代村

政光

2

庄原市

庄原町

石丸

2

庄原市

庄原町

宮の下

2

庄原市

庄原町

大黒町

2

東城町

新坂村2-1

宇那田

2

庄原市

山内西村

昭和

2

三次市

和田村2-1

西組

2

三次市

粟屋村

中の村上中

2

三良坂町

三良坂町

岡田1

2

三次市

田幸村

本郷下

2

高宮町

来原村

上沖城

2

高宮町

来原村

すだれ

2

吉舎町

広定村2-2

2

千代田町

壬生町

本町

2

吉田町

吉田町

柿原

2

豊平町

吉坂村

阿坂寺組

2

世羅西町

小国村

次郎丸

2

豊平町

吉坂村

七曲

2

福山市

服部村

本郷上

2

八千代町

根野村

古屋

2

安佐北区

志屋村

奥梶名

2

豊栄町

豊栄町

米山下

2

府中市

下川辺村

河面上

2

神辺町

中条村

田渕

2

福富町

久芳村

神郷川1(旧神上)

2

福山市

有磨村

上東之面

2

福山市

宜山村

尾部西

2

福山市

宜山村

下東

2

大和町

大草村

行広

2

東広島市

志和堀村

谷政

2

東広島市

東志和村

寺東

2

東広島市

志和堀村

後休

2

福山市

神村

第3区

2

東広島市

東高屋村

栄町

2

三原市

高坂村3-2

西上

2

安芸区

瀬野村

榎山中

2

安芸区

瀬野村

榎山下

2

東広島市

原村

為本

2

河内町

入野村

大矢中

2

本郷町

上北方村

後谷

2

尾道市

浦崎村

帆崎

2

東広島市

板城村2-1

馬木本郷

2

黒瀬町

上黒瀬村

宗近

2

黒瀬町

乃美尾村

2区

2

瀬戸田町

南生口村

空組

2

大竹市

玖波町

みのり

2

安浦町

安登村2-1

奥条東

2

大柿町

深江村

須元

2

)-37と同様、高齢化率の列は、地図の凡例に示してあるように、2=10 ~20%を表す。

これら諸集落は、農業生産の経済性が相対的に高いか、兼業収益等の得やすい立地か何らかの経済的に優位な条件があると考えられる。

 

1)-4          地域類型4の農家人口高齢化

-25:地域類型4における1農業集落当り農家人口高齢化の分布(2000)

 既にみたように地域類型4は農家人口高齢化の最も進んだ地域である。相対的に市場からは最も距離の遠い、経済合理性に接する機会の少ない地域である。閉鎖性と孤立性のリスクにさらされ、高齢化が加われば、身動きできなくなりやすい地域と考えられる。ここで農家人口高齢化率80%以上の諸集落を抜き出したものが表-40である。これらの地域は超限界集落として位置づけられるものと考える。

-40:地域類型4の農家人口高齢化率80%以上の諸集落

市町村名

旧市区町村名

集落名

高齢化率

高宮町

川根村

下川根

10

高宮町

川根村

山根

9

油木町

新坂村2-2

今保田川瀬

10

神石町

永渡村

江草

9

神石町

永渡村

天瀬

9

総領町

領家村

黒目学校,寺谷

10

吉舎町

八幡村

芋ケ畑

9

向原町

向原町

戸島7区上

9

戸河内町

戸河内町

梶の木

9

府中市

諸田村2-2

小国,陸延

9

佐伯町

四和村

大虫

10

湯来町

砂谷村

大山

10

)-38と同様、高齢化率の列は、地図の凡例に示してあるように、9=80 ~90%、10=90%以上を表す。

 

-41:地域類型4の農家人口高齢化率20%以下の諸集落

市町村名

旧市区町村名

集落名

高齢化率

高野町

上高野山村

札場

2

西城町

西城町

奥八鳥

2

庄原市

山内北村

合の峠

2

東城町

帝釈村

国広

2

芸北町

中野村

土橋

2

神石町

高光村

野上

2

油木町

油木町

市場上

2

大朝町

大朝町

胡子町

2

大朝町

大朝町

追坂

2

三和町

来見村

坂田

2

三和町

小畠村

陰地

2

豊平町

原村

中原寺郷

2

三和町

高蓋村

自力

2

福山市

山野村

東ノ免

2

加計町

加計町

ワカヨ

2

安佐北区

小河内村

宇賀井野

2

安佐北区

久地村

野冠

2

安佐北区

三入村

桐原第19区

2

湯来町

水内村

和田1

1

三原市

八幡村

野串北

2

)-39と同様、高齢化率の列は、地図の凡例に示してあるように、1=10%未満、2=1020%を表す。

 逆に農家人口高齢化の低い20%以下の諸集落を表-41に示した。

2)       農業就業人口

 つぎに位相を変えて農業労働力を農業就業人口の側面から検討したい。「5.地域類型別農業就業人口年齢構成の推移」における分析を踏まえた補足分析である。農業就業人口の最大の特徴は65歳以上農家人口率の男女間の差異の逆転現象である。65最上男子農業就業人口の高齢化率が極めて高く、女子のそれが相対的に低くなり、女子の農業労働力が農業の担い手として重要性が高くなっていることを示している。ここでは今一度「農業就業人口」の定義を確認しておきたい。それは「満15才以上の世帯員のうち調査期日前1年間に自営農業のみに従事した人又は自営農業とその他の仕事の両方に従事した人のうち、自営農業が主の人」となっている。

2)-1          地域類型1

 さて図-26には地域類型別に65才以上男女農業就業人口比率の推移を折れ線グラフで示した。1970年から1995年までは総農家概念での比率、2000年のみ販売農家概念での比率であることに留意されたい。両者に連続性はないのであるが、2000年には総農家概念のデータはないのでやむを得ない。販売農家概念は自給的農家を除いた農家概念で、総農家概念はそれを含んだ農家概念である。65歳以上農業就業人口の構成比の定義は次のようになっている。すなわち、65歳以上農業就業人口の構成比=1970199565歳以上農業就業人口÷19701995年農業就業人口計×100、である。2000年の場合、この分母、分子が総農家概念から販売農家概念の農業就業人口に変わるということである。

 このグラフから多くのことがいえるが、特徴的なのは男女間の大きな差である。男子の65歳以上農業就業人口構成が女子のそれよりかなり高い差を示していることである。家族の男子農業就業人口のうち兼業に就業できる若い労働力は兼業化し、残った女子労働力が農業を守るという構造が表れていると推測する。1970年から2000年まで上がり続けて来た。男子は近年次第に頭打ち状態になっているが、女子はしり上がりになっている。

 そこでここでは2000年時点の65歳以上男子農業就業人口の構成比をGIS分析し、各地域類型の特徴を概観する。

-26:地域類型別男女別65歳以上農業就業人口構成の推移

注)2000年のみ販売農家概念での表示

 

-27:地域類型1における65歳以上男子農業就業人口構成(2000年、販売農家概念)

地域類型1の実態を図-27に示した。大部分は65歳以上男子農業就業人口50%以上の限界的な集落になっている。しかし4つの地域類型に共通のことであるが、女子のそれは先のグラフをみると10%程度低く、女子も高いことは同じであるが、男子に代わって女子が農業の担い手となっている面が窺われる。

 地図によれば、地域類型1では65歳以上男子農業就業人口100%の集落が277集落、34.3%を占めている。それが50%以上の農業集落になると、749集落(92.6%)に達している。50%以下の集落数は60で、7.4%のシェアに過ぎない。ここでは65歳以上男子農業就業人口構成が30%以下の農業集落を抽出してみたい。表-4211集落がそれである。

-42:地域類型1における男子65歳以上農業就業人口構成比30%以下の諸集落

市区町村名

旧市区町村名

集落名

男子65歳以上農業就業人口構成比

福山市

加法村

吉和

25

福山市

坪生村

峠,青木

25

福山市

東村

小原

20

福山市

福山市

多治米中

25

安佐南区

祇園町3-1

撰谷

25

安佐南区

祇園町3-1

青原中

28.6

福山市

鞆町

西上

20

東広島市

西条町

下見第五

20

東広島市

西条町

上城

16.7

安芸区

中野村

平原上

20

川尻町

川尻町

久俊

25

2)-2          地域類型2

-28:地域類型2における65歳以上男子農業就業人口構成(2000年、販売農家概念)

 図-28の地図によれば、地域類型2の場合も65歳以上男子農業就業人口構成は50%以上が圧倒的に多い。50%以下の集落は表-43に示す5集落、6.8%である。

-43:地域類型2における男子65歳以上農業就業人口構成比50%以下の諸集落

市区町村名

旧市区町村名

集落名

男子65歳以上農業就業人口構成比

三次市

神杉村

来源

28.6

三次市

神杉村

山手

25

三次市

神杉村

妙眼寺

16.7

東広島市

造賀村

天田

40

三原市

沼田東村

釜山第一

41.7

 100%の集落は4集落ある。したがって地域類型2の場合も女子労働力が重要な補完であることが推定できる。

2)-3          地域類型3

-29:地域類型3における65歳以上男子農業就業人口構成(2000年、販売農家概念)

 -29の地図によれば、地域類型3の場合も65歳以上男子農業就業人口構成は大部分が50%以上の農業集落であり、女子労働力への依存が高いことは他の地域類型と同様である。ここでも表-4465歳以上男子農業就業人口構成の低い、農業就業人口の若い30%以下の25集落、シェア1.1%を抽出した。

-44:地域類型3における男子65歳以上農業就業人口構成比30%以下の諸集落

市区町村名

旧市区町村名

集落名

男子65歳以上農業就業人口構成比

三次市

川地村

新開

28.6

甲田町

小田村

井才田

28.6

世羅西町

小国村

福原

14.3

福富町

久芳村

西の谷2(旧西上)

25

福山市

宜山村

上山守3,2丁目

25

福山市

宜山村

吹上

20

大和町

神田村

影久

20

久井町

坂井原村

坂井原川筋下

25

東広島市

西志和村

椛坂下

28.6

東広島市

西志和村

則重

28.6

安佐南区

伴村

平木

28.6

三原市

高坂村3-2

西上

25

東広島市

東高屋村

重兼下

25

東広島市

原村

河内田

11.1

東広島市

原村

昼原

28.6

尾道市

浦崎村

中高尾

25

東広島市

郷田村

東子

28.6

本郷町

南方村2-2

小舟木下

25

三原市

小泉村

垣井

25

佐伯町

友和村2-1

昭和

25

瀬戸田町

瀬戸田町

高根6

28.6

安浦町

安浦町

藤木

25

瀬戸田町

瀬戸田町

熱田

28.6

瀬戸田町

南生口村

田之浦下

20

瀬戸田町

南生口村

田高根郷上

14.3

また65歳以上男子農業就業人口構成が100%の集落は491集落、21.8%のシェアに上っている。65歳以上男子農業就業人口構成が50%以上の集落になると、1920集落、85.2%のシェアに達している。

2)-4          地域類型4

 -30:地域類型4における65歳以上男子農業就業人口構成(2000年、販売農家概念)

-30の地図に示すように地域類型4でも65歳以上男子農業就業人口構成は大部分が50%以上の集落で占められている。すなわち989集落、83.5%のシェアに達する。ここでも65歳以上男子農業就業人口構成が30%以下の比較的若い諸集落をリストアップする。

-45:地域類型4における男子65歳以上農業就業人口構成比30%以下の諸集落

市区町村名

旧市区町村名

集落名

男子65歳以上農業就業人口構成比

比和町

比和町

元常

11.1

東城町

田森村

野呂

25

口和町

口北村

下本谷

20

庄原市

本田村

上表

25

神石町

永渡村

和田

25

庄原市

本田村

蔭地上

25

芸北町

中野村

土橋

25

豊松村

豊松村

中筋

26.7

豊松村

豊松村

平谷

22.2

美土里町

北村

中北日南上

25

美土里町

北村

中北陰地下

25

芸北町

八幡村

八幡9区

25

三和町

高蓋村

25

豊平町

都谷村

大筒

25

安佐北区

飯室村

烏帽子

16.7

安佐北区

三入村

南原第24区

20

安佐北区

久地村

境原

14.3

湯来町

上水内村

日入谷

25

佐伯町

玖島村

正之原

25

廿日市市

原村

橋本

14.3

大野町

大野町

土井

25

3)                60歳未満男子農業専従者率

 次に60歳未満男子農業専従者率=60歳未満男子農業専従者率÷農業従事者×100、という定義に基づく農業労働力の側面から検討を加えて、各地域類型別の実態を把握したい。農業専従者の定義は1年間に自営農業に150日以上従事した者である。かなり高い質の農業労働力に絞った農業労働力の検討といよう。

図-31:地域類型別60歳未満男子農業専従事者率の推移

 図-31のグラフになる。1985年から2000年までの20年間の5年おきのデータであるが、1985年は総農家概念、1990年以降は販売農家概念で示していて、不連続データとなっているが、その点を念頭に置いて検討したい。4つの地域類型のうち地域類型1の推移が特徴的な動きを示していて、1990年以降比率は漸次高まって労働力の質は改善されている。地域類型2は最も低く、農業労働力の質は下がり気味である。地域類型34も横ばいないし低下傾向である。これまでみたように地域類型1では1970年から2000年にかけて個別農業経営の経営規模の全般的な縮小、経営耕地面積の縮小、農家戸数の減少が起こっていたが、その中でのグラフのような1985年以降の農業労働力の質の上昇が起こっている。これをどう解釈するかが問題であろう。激しい農民層の分解の中で、経営耕地規模を縮小しながらも市場経済に適応したすぐれた農業経営が萌芽的に生まれている兆候のようにも見える。次節の「(5)農業経営組織の単一経営化の深化」においても見られるように、地域類型1の経営形態は他の地域に比較して露地野菜、施設野菜等の経営形態が多く、他と異なった発展を示している。全般的な農民層の分解の中で経営資源の選択と集中を行った結果としての一面が表れているようにも思われる。

 次にGISによる地域類型別実態の検討に移りたいが、農水省のデータについてコメントしたい。60歳未満男子農業専従者という形でデータを絞るとかなり厳しい農業労働力の質を規定することとなり、データ数が減少する。そこで65歳未満男子農業専従者と年齢定義を5才分ゆるめ、表-46のようにコード化してデータをまとめたものを用意している。したがって若干のずれが生じるが、これを用いて、GIS分析を行いたい。

-4665歳未満男子農業専従者率別類型

区分

コード番号

10%未満

11

1020%

12

2030

13

3040

14

4050

15

50%以上

16

65歳未満の男子農業専従者なし

20

農業従事者なし

30

 

3)-1          地域類型1(65歳未満男子農業専従者率の検討)

図-32:地域類型1における2000年の65歳未満男子農業専従者率別

-47:地域類型1における65歳未満男子農業専従者率50%以上の諸集落

市区町村名

旧市区町村名

集落名

65歳未満男子農業専従者率

三原市

三原市

千川

16

東区

中山村

落久保中

16

福山市

鞆町

西中

16

因島市

田熊町

島前3区

16

呉市

呉市

新中畑

16

注)①65歳未満男子農業専従者率は、1116までのコード番号で示し、11=10%未満、12=1020%13=2030%14=3040%15=4050%16=50%以上、20=65歳未満男子農業専従者なし、30=農業従事者なし、である。
  ②65歳未満農業専従者の定義:65歳未満で、農業従事150日以上の者。
  ③65歳未満農業専従者率の定義:65歳未満農業専従者÷農業従事者数×100

 

-48:地域類型1における65歳未満男子農業専従者率3040%の諸集落

市区町村名

旧市区町村名

集落名

65歳未満男子農業専従者率

福山市

福山市

上組

14

安佐南区

安村

鶏頭原

14

安佐南区

祇園町3-1

小原

14

東区

温品村

矢田

14

尾道市

向島東村

肥浜

14

佐伯区

八幡村

寺田

14

佐伯区

観音村2-1

屋代

14

注)表-46に同じ

 表-4748は地域類型1における65歳未満男子農業専従者の農業従事者中の比率が50%以上と30 ~40%の諸集落を抽出したものである。他の地域類型と比較して65歳未満農業専従者の比率の高い諸集落の数は相対的に多いといってよい。地域類型1のこの30年間における農民層分解は最も激しかった。この地域では市場経済への農業の適応の深化が行われ、個別経営の経営規模の縮小、全面的落層化が進んだ半面、市場経済に高い適応力を持った農業生産が再編成された結果、上表のような農業労働力の質の高い諸集落が残存していると考えられる。

 

3)-2          地域類型2(65歳未満男子農業専従者率の検討)

図-33:地域類型2における2000年の65歳未満男子農業専従者率別

 

 地域類型2においては65歳未満男子農業専従者率は20%以下の集落は約70%を占め、それ以上に質の高い農業集落はない。全体的に元気のない状態が続いているといえよう。

3)-3          地域類型3(65歳未満男子農業専従者率の検討)

図-34:地域類型3における2000年の65歳未満男子農業専従者率別

-49:地域類型3における65歳未満男子農業専従者率50%以上の諸集落

市区町村名

旧市区町村名

集落名

65歳未満男子農業専従者率

尾道市

浦崎村

満越西

16

竹原市

南方村2-1

十八原

16

向島町

立花村

岡条

16

内海町

横島村

2区

16

竹原市

吉名村

久保谷,久保城

16

沖美町

三高村

千城原

16

大柿町

大柿町

16

注)表-46に同じ

 

-50:地域類型3における65歳未満男子農業専従者率3040%の諸集落

市区町村名

旧市区町村名

集落名

65歳未満男子農業専従者率

油木町

小野村

松尾

14

新市町

常金丸村

砂原

14

注)表-46に同じ

地域類型3における農業労働力の質の高いと考えられる諸集落を表-4950に抽出した。その数はわずかに9つである。大部分は65歳未満男子農業専従者がいない農業集落(1,272集落、シェア52.8%)である。この地域でも全体的に男子農業労働力の質的低下に悩まされているといえよう。

3)-4          地域類型4(65歳未満男子農業専従者率の検討)

図-35:地域類型4における2000年の65歳未満男子農業専従者率別

-51:地域類型4における65歳未満男子農業専従者率3040%2030%の諸集落

市区町村名

旧市区町村名

集落名

65歳未満男子農業専従者率

庄原市

本田村

発展下

13

豊平町

原村

千丁原

14

豊平町

都谷村

大筒

13

千代田町

南方村

武住

13

加計町

加計町

辻ノ河原

13

加計町

殿賀村

上堀

14

河内町

河内村

町内一区

13

湯来町

砂谷村

伏郷

13

注)表-46に同じ

 地域類型3に比べて、地域類型4はさらに男子農業労働力の質は低下する。65歳未満男子農業専従者率が50%以上の集落は皆無である。表-51には、65歳未満男子農業専従者率が2040%8つの農業集落を抽出した。ここでも65歳未満男子農業専従者なしの農業集落数は758、シェア59.8%である。

 

(5)     農業経営組織の単一経営化の深化

 以上のような経営耕地、農業労働力等の経営資源の深刻な実態の下で農業経営組織の単一経営化の深化が見られるという厳しい実態をGIS分析によって明らかにしたい。まず4つの地域類型の経営組織の概要を把握するために図-36を示した。

図-36:地域類型別販売金額第1位の部門別農業集落構成(販売農家概念)

 これによれば、地域類型1のみが他と異なったパターンを示していることが分かる。地域類型1ではグラフのように販売農家なしの構成比が約20%を占めているのと、施設野菜、露地野菜の比率が高いことが特徴である。地域類型3、4は極めてよく似たパターンで、稲作中心の経営組織が80%以上を占めている。地域類型234のパターンと似ているが、稲作と果樹の2部門しかないのが特徴である。

1)       地域類型1

-37:地域類型1における農業経営組織の実態(2000年販売農家概念)

 本稿、「8.地域類型別経営組織の推移」、で明らかにしたように、農業経営組織の単一経営化の深化と複合経営組織の衰退が見られ、農業生産力の衰退徴候が色濃くなっていた。ここでは販売金額第1位の部門別に農業集落を分類し、色分けして経営組織の2000(販売農家概念)における実態を明らかにしたい。

 図-37の地図に地域類型1の経営組織の実態を示した。その凡例はコードによって表-52のように示されている。他の地域類型でも同様である。

-52:農業集落首位作目別類型

区分

コード番号

稲作

麦類作

雑穀・いも類・豆類

工芸農作物

施設野菜

露地野菜

果樹類

花き・花木

その他の作目

畜産(養蚕を含む)

10

販売農家なし

20

)区分は、当該農業集落における販売農家のうち、販売金額第1位部門の割合が最も高い作目を指標としている。「2000年世界農林業センサス 農業集落カード利用ガイド」農林統計協会刊、p.49

 

 地図から稲作部門を第1位とする農業集落数は503集落、49.0%のシェアを占めていることが分かる。次に多いのは販売なしの農業集落数で、186集落、18.1%のシェアに及んでいる。露地野菜の経営組織を中心とする農業集落数は114で、11.1%のシェアである。

2)       地域類型2

-37:地域類型2における農業経営組織の実態(2000年販売農家概念)

 図-37に示すように地域類型22つの経営組織しかない。そのうち稲作を中心とする経営組織の農業集落数は6181.3%のシェアを占め、果樹類の経営が14集落、18.7%のシェアである。

3)       地域類型3

-38:地域類型3における農業経営組織の実態(2000年販売農家概念)

 図-38に示す地図によれば、稲作を第1位とする経営組織の農業集落数は197281.8%のシェアを占めている。次いで多いのが果樹類の経営組織で257集落、10.7%シェアである。

4)       地域類型4

-39:地域類型4における農業経営組織の実態(2000年販売農家概念)

 図-39の地図によって明らかなように地域類型4においても稲作を中心とする経営組織の農業集落数は1,15691.1%のシェアに達している。地域類型3と同様に地域類型4でも稲作単一経営組織が圧倒的比重を占めている。表-11に示したように1980年からの時系列では両類型で1990年まで次第に稲作単一経営の比重は増し、2000年にかけては微減していた。しかし稲作単一経営組織へと追い込まれる趨勢のなかでの実態であるといえよう。

(6)      GIS分析による広島県農業集落の実態

 以上のような経営耕地面積、農家人口高齢化、農業就業人口高齢化、農業経営組織の単一経営化実態を単純なGIS分析によって明らかにしたが、1970 ~2000年までの広島県農業の実態は総合して、崩壊寸前といっても過言ではない状態に置かれている。その後の新たな動向の中に事態を転換できる農業生産の技術的展開や農業経営組織の革新がなければ、厳しい事態はそのまま継続しているといえよう。そのなかで農業集落は崩壊に追い込まれていると考える。わが国の国家形成の母体となり、人々のエートス形成の場となって千年以上にわたって続いてきた社会の細胞の壊死が刻々と迫っている。しかもこれに代わるコミュニティは形成される保証はない。大都市でもコミュニティはずたずたであり、凶悪犯罪、孤独死、餓死、自殺等の異常な状態が噴き出している。多くの人がそれを指摘しながら、その自覚症状に対処する方法を知らない。私にもその方法は不明であるが、崩壊しつつある農業集落とはわれわれにとって何であったか、社会、経済的にどのような特徴を持ち、そこでわれわれのどのような倫理、宗教、規範意識、自然観を養成してきたのか等について西欧を含む世界的な広い視野から検討することが不可欠であるように思う。農業集落を知ることが新たなコミュニティやエートスを形成する上で不可欠であるように思われるのである。これはそう簡単ではなく長い産みの苦しみを経なければならないような嫌な予感がする。

 

参考文献

「農業問題」大内力著、岩波書店、1961

「現代日本経済政策論」植草一秀、岩波書店、2001

「経済データの読み方」鈴木正俊、岩波新書、1989

「人生設計に役立つ数学」藤本壱、自由国民社、2003

「ビジネスデータ分析実践の極意」住中光夫、ASCII2004

「中山間地域の底力-資源管理とその利活用-」坪本毅美編著、農林統計協会、2006

「中山間地域経営論」北川泉編著、御茶ノ水書房、1995

「自作小農業から自立市民農業へ」笛木昭、農林統計協会、2006

「アジア的ということ」吉本隆明、弓立社、2002

参考資料

① 地域類型の定義

地域類型

定義

地域類型1(都市的地域)

可住地に占めるDID面積が5%以上で、人口密度500人以上またはDID2万人以上の市町村(旧市区町村)

可住地に占める宅地率が60%以上で、人口密度500人以上の市町村(旧市区町村)。ただし林野率80%以上のものは除く。

地域類型2(平地農業地域)

耕地率20%以上かつ林野率50%未満の市町村(旧市区町村)。ただし傾斜20分の1以上の田と傾斜8度以上の畑の合計面積の割合が90%以上のものを除く。

耕地率20%以上かつ林野率50%以上で、傾斜20分の1以上の田と傾斜8度以上の畑の合計面積の割合が10%未満の市町村(旧市区町村)

地域類型3(中間農業地域)

耕地率20%未満で、「都市的地域」及び「山間農業地域」以外の市町村(旧市区町村)

耕地率20%以上で、「都市的地域」及び「山間農業地域」以外の市町村(旧市区町村)

地域類型4(山間農業地域)

林野率80%以上かつ耕地率10%未満の市町村(旧市区町村)

注)1)決定順位:都市的地域→山間農業地域→平地農業地域・中間農業地域

  2)DID(人口集中地区)とは、人口密度4,000/km2以上の国勢調査地区がいくつか隣接し、合わせて人口5,000人以上を有する地区をいう。

  3)傾斜は一筆ごとの耕地面の傾斜でなく、団地としての地形状上の主傾斜をいう。

  4)旧市区町村とは、昭和2521日現在の市町村の区域のことをいう。

  5)2000年世界農林業センサスの農業集落カードに用いた農業地域類型区分は、平成1311月時点のものになっている。

 

②農家定義等

・例外規定販売農家:1990年センサス以降、経営耕地面積が30a未満であって、調査期間前1年間の農産物販売額が50万円以上の農家のこと。

なお19701985年センサスまでは、経営耕地面積が「東日本は10a未満、西日本は5a未満」1990年センサスからは全国一律に10a以上、でかつ調査期日前1年間の農産物販売額が、1970年センサスは5万円以上、1975年センサスは7万円以上、1980及び1985年センサスは10万円以上、1990年センサス以降は15万円以上あった世帯を「例外規定農家」としている。

・販売農家:経営耕地面積が30a以上又は調査期間前1年間の農産物販売額が50万円以上の農家

・自給的農家:経営耕地面積が30a未満かつ調査期間前1年間の農産物販売額が50万円未満の農家

・総農家:総農家=自給農家+販売農家

注)本稿は「中山間地域の発展戦略」四方 康行著、農林統計協会刊、2008の第3章に補足修正を加えたものである。