正しい傷の手当て 本文へジャンプ





最後に


▪ 傷をうまく治すには,環境作り


 傷を治すのは,その人自身の体が持つ自己治癒力です。それをうまく引き出す環境を維持することが,傷を治す最良の方法です。環境作りは傷の部分だけではありません。周辺から上皮化が起こることや傷の周りから細菌が侵入してくる可能性を考えると,周囲の皮膚の状態もできるだけ良い状態であるべきです。順調に治癒が進むためには,周辺の皮膚もきれいにするスキンケアが大事です。スキンケアのポイントは,やはり皮膚の観察,洗浄,保護です。
 
今まで記事の連載や医療関係者の講演会,一般の方への市民公開講座などを行なってきましたが,多かったご質問は消毒と洗浄についてでした。「消毒は本当にしなくてよいのか」,「水道水で洗って問題はないのか」というご質問です。一方,「消毒をしてもらっているが,大丈夫か」というご質問もありました。感染を起こし細菌が体に悪い作用を及ぼしていなければ,消毒をする必要はありません。必要のない消毒は,自己治癒力を妨げます。不要な消毒などで治癒の邪魔をしないようにします。不要な消毒などで体に侵襲を加えないようにします。洗浄液については,傷の表面を洗い流すのが目的で,傷のあるところに多量に溜めるわけではありません。目を洗ったり飲み込んで体の中に入れる水道水に不安がありますか?体表面の傷の洗浄は,水道水で十分です。
 ちょっとした傷を含めてすべての疾患において,低侵襲(できるだけ負担をかけないようにする)の治療の考え方が大事なのです。低侵襲の考え方を持ちながら,適切な外用剤や創傷被覆材を選択していきます。医療関係者で創傷被覆材の使用に慣れておらず,使っておられない方がおられますが,自分の傷で試されたらいかがでしょうか。私は,花岡青洲ではありませんが,創傷被覆材の利用にあたって,安全性と有効性を自分自身と家族で確認しました。だからこそ,自信を持って患者様に使うことができるのです。
 褥瘡や糖尿病性潰瘍はもちろんのこと,日々のちょっとした傷でも軽視することはできません。正しい傷のケアが広く理解されることを期待しますし,今後も新しいケア方法が見い出されることを期待しています。