正しい傷の手当て 本文へジャンプ





褥瘡(床ずれ)


▪ 褥瘡を,軽く見てはいけない
▪ 褥瘡は,治療できる
▪ 褥瘡は,圧迫とズレでできる
▪ 褥瘡は,皮膚が弱くなっているとできやすい
イメージひどい感染を起こした仙骨部(背中の下の方)の褥瘡

 褥瘡(じょくそう,床ずれのこと)も,傷のひとつです。皮膚の機能障害から,感染や栄養障害を起こす危険があり,酷くなると敗血症(細菌自体あるいは細菌毒素が全身に回り,高熱や意識障害など重篤な全身状態となる重症感染症)で死亡することもあります。そのようなことにならなくても,処置のための経済的時間的負担が大きくなり,外出や旅行が制限されたりなど多くの問題を起こします。介護者の負担も大きくなります。就業の能力があっても就職できなかったり,職場への復帰を妨げることもあります。きちんとした対応が必要な傷なのです。
 褥瘡にも発生原因が当然あって,原因を除くと治ることがあります。また,予防できる場合もあります。決して,「治療方法がない傷」,「治療しても治らない傷」,「できるのは仕方ない傷」ではありません。今まで原因は,局所への持続的な圧迫と言われてきました。圧迫は体に垂直に加わる力で,32
mmHg(43.5gc㎡とも表現でき,一平方cmあたりに加わる力が43.5gということです)を越える圧が加わると褥瘡が発生しやすいと言われています。この数値は,皮膚近くの毛細血管圧です。つまり,32mmHg以上の圧だと毛細血管が押しつぶされて血行が遮断され,組織障害が起こると考えられてきました。最近では,体に平行に加わるズレの力も原因と言われています。皮膚のズレが繰り返し起こったり皮膚が大きくズレたままだと,血管が伸ばされたり閉塞して血流が低下し,また組織が直接損傷され褥瘡が発生します。
 
褥瘡は寝たきりの人にだけ発生すると考えている方がいます。しかし,座っても圧迫やズレの力は体に加わるので,車いす利用者の方にも生じます。この場合は,長時間の座位や不良な座位姿勢のために発生します。健康な人が急に病気になったりけがをして短期間だけ動けなくなっても,褥瘡が発生することがあります。寝ても座ってもお尻の周りに圧迫やズレが加わりやすいので,褥瘡がよくできるのはお尻の周りです。しかし,重力のある地球に住んでいる以上,人が何かに体を委ねれば必ず接触部位に圧迫やズレが発生するため,褥瘡は体のどこにでもできる可能性があります。
 さて,圧迫やズレだけが褥瘡の原因ではありません。皮膚の耐久性により,発生のしやすさが変わります。皮膚が弱くなっていると,ちょっとした圧迫やズレでも褥瘡を容易に発生します。皮膚への摩擦,皮膚のふやけや浮腫,加齢,基礎疾患,栄養障害などで皮膚の耐久性が低下します。
摩擦は,皮膚を歪ませたり損傷を起こし圧迫による障害を受けやすくしてしまいます。汗や尿などで皮膚は湿りふやけます。湿って皮膚が脆弱化する理由は,次の通りです。皮膚が浸軟化すると(湿ると)皮膚の透過性が亢進し,汗や排泄物,細菌などの作用を受けやすくなります。また,排泄物はアルカリ性になり皮膚のpHをアルカリ性に傾けて,皮膚表面の酸性バリアの機能すなわち保護機能を低下させてしまいます。炎症や循環障害により発生する浮腫によっても皮膚組織は薄くなり,傷ができやすくなります。
 加齢では,いくつかの変化が体に起こります。皮膚などの軟部組織の変化としては,表皮が薄くなったり表皮と真皮の結合力が弱くなります。真皮の弾性力や強度,皮脂分泌量の低下が認められ,皮下脂肪量と筋肉量の減少も起こります。創傷治癒に重要な役割を果たす線維芽細胞の機能低下も起こります。皮膚が弱くなり,傷は治りにくくなるのです。骨格の変化としては円背などが認められるようになり,骨組織の脆弱化も進行します。軟部組織と骨格の変化は骨突出を著明にします。精神心理的な変化として日常生活への意欲の低下などがあります。骨の突出と精神活動性の低下があると,同一部位に圧が加わりやすく褥瘡を容易に発生したり,また治療の障害になったりします。精神活動性の低下は,若年者でも精神神経科的疾患によりときに認められます。意識状態の変化やさまざまな疾患により,関節の拘縮(関節が動かなくなること)を起こしてしまうこともあります。糖尿病や循環器疾患により血管の変性が起こると,皮膚への酸素や栄養分の運搬と皮膚からの二酸化炭素や老廃物の排除がうまく行われなくなり,皮膚に創傷ができたり創傷が治りにくくなります。皮膚疾患そのものによっても,皮膚は脆弱化します。また悪性腫瘍などで使用する治療薬により,創傷治癒力が減弱したり組織耐久性が低下します。低栄養状態は軟部組織を萎縮させ,骨突出の程度を強くしたり創傷治癒力を低下させます。このような要因で組織の耐久性に変化が起こると,圧やズレとの相対的な関係で褥瘡が発生しやすくなります。

 褥瘡の治療を受けている方や在宅で褥瘡の治療をしているご家族など,褥瘡と無関係ではない方がたくさんおられます。一方,今は褥瘡と無縁でも,これからの在宅医療や高齢化社会を考えると,いつ褥瘡と縁があるかもしれません。多くの方に褥瘡ケアの知識を持っていただきたいと思います。
イメージ仙骨部の褥瘡イメージ
肩甲骨周囲の褥瘡。左を下にした横向きで背中側。左が頭側,右が臀部側。
イメージ右肘内側の褥瘡

イメージ踵の褥瘡
イメージ
①背部,②殿部,③右大転子部(あしの付け根の外側)の褥瘡