正しい傷の手当て 本文へジャンプ





消毒?


▪ 基本的に消毒はしない 



基本的に消毒は不要。写真では,消毒剤の色により傷の状態がわかり難くなっている。

 自分の体に傷ができたり友人の傷を見たら,どうしますか?ひどく出血していれば,出血部位を圧迫する直接圧迫法を行い,できるだけ早く病院を受診する必要があります。ここでは,日常よく見るような出血がひどくない傷の場合を考えてください。頭に浮かんでくるのは,消毒ではありませんか?以前,4歳ぐらいの小児が,母親の傷の処置を診察室で見ていて,しきりに消毒,消毒と言って消毒を催促していたことがありました。「しっかりと消毒をし,そしてガーゼをあてる。」と,ほとんどの方が考えるようです。

 ここでは,傷の処置に当然と考えられている消毒についてお話しします。みなさんは,傷についたばい菌を殺そうとして消毒をされると思います。今までお話した傷が治っていく仕組みを思い浮かべながら理想的な消毒剤を考えてみると,いろいろな種類の病原菌に確実に作用してその効果も持続し,傷を治そうとしている細胞や傷の周囲にある正常な組織には無害であるものが理想的な消毒剤でしょう。ところが,このような理想的な消毒剤はないのです。それどころか,消毒剤には細胞に対する毒性があり,傷を治すために活動する細胞を傷害します。消毒剤によりアレルギー反応や接触性皮膚炎を起こす人もいます。濃い色のついた消毒剤では,組織に色が付着して傷の状態がわかり難くなることもあります。消毒の中止を指示すると,傷が治り始めるのをしばしば経験します。消毒剤は使用しなくてよいのなら使用すべきではないのです。現在,医療の各分野で低侵襲の治療が求められています。傷の処置でも,この考え方は必要です。侵襲を与える恐れのある(害を起こす恐れのある)消毒剤は,使用しなくてよいのなら使用すべきではないのです。

消毒が許されるのは,はっきりと感染を認めたり,明らかに傷がひどく汚染されている場合です。感染があると思われるのは,傷周囲の発赤,熱感,腫脹(はれ),疼痛,傷からの排膿,全身的発熱があるときです。しかし,実際にみなさんが経験される傷で,このような所見を示す傷はどれほどでしょうか。「ジクジクしている。」,「しるが出ている。」,「少し赤い。」だけで感染していると思わないでください。外傷による傷は,基本的には汚染されていますから,消毒するのもやむを得ないのですが,消毒のあと洗浄し消毒剤を洗い流すのが理想的です。
 すべての病原菌に効果を持つ消毒剤はないこと,消毒剤の効果持続時間は限られていること,深部組織にいる細菌までは消毒できないこと,たとえ消毒剤が効いても残った細菌の増殖力によりまた細菌が増えること,消毒に綿球を使うと綿球の繊維は異物となって傷に残る恐れがあることなどの問題点も指摘されていることを考えると,消毒という行為も再考されるべきです。感染や強い汚染がなければ,すり傷から縫合創,床ずれまでどのような傷でも消毒は不要です。

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消毒剤で皮膚障害(きちんと縫った傷で2日以上経過して問題なければ,消毒よりも洗顔をするべきです)

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