正しい傷の手当て 本文へジャンプ





自己治癒力


▪ 自分の体の傷は,自分の体が治している
▪ 傷を治すために,沢山の細胞が働いている

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 大きく分けて傷の治療は,縫合する場合と縫合しないで処置だけを続けていく場合の2つがあります。小さくて浅い傷や広範囲でも浅い傷あるいはひどく汚れた傷などでは,縫合の必要がなかったり感染が起こることを心配してわざと縫合しません。
 どのような場合であれ,傷はどのようにして治っていくのでしょうか。
 
傷を治すのは病院や医師だと勘違いされている方が,たくさんいます。傷を治しているのは,実はみなさんご自身なのです。医師が行うのは傷が治るような環境作りであって,実際に傷を治すのはみなさんの体なのです。

 傷を治すのはみなさんの体ですと言いましたが,傷のところではどのようなことが起こっているのでしょうか。傷ができると,まず出血します。でも,体は出血を放置はしません。体を守る手段として,局所の血管の収縮や血液中の血小板などの止血機序により出血を止めようとします(血小板は血管に開いた穴のところに沢山集まり,穴を閉じようとします)。傷のところで固まった血液塊は,外力や感染,乾燥から傷を保護する働きがあるとも言われています。傷に向けて炎症細胞の浸潤が起こり,引き続いていろいろな細胞の活動が活発に行われます。傷に認められる滲出液の中の好中球や大食細胞(傷をきれいにする),線維芽細胞(傷を修復する肉芽組織を作る),血管内皮細胞(血管を作る),筋線維芽細胞(傷を収縮させる),表皮細胞(最後に傷を覆う),さらに細胞成長因子など各種サイトカイン(細胞の移動や活動を盛んにする)や蛋白分解酵素(組織を溶かす)が,一生懸命働き傷を修復しようとします。傷の存在が細胞により認識され細胞の移動と活動が起こり,出血期,炎症期,組織増殖期,瘢痕成熟期を経て傷が治っていくと言われています。また,傷には収縮現象が起こります。小さくなろう小さくなろうともして,傷は治ろうとするのです。このように,生体には傷を治す力があり,これを自己治癒力といっています。みなさんも,必ず持っています。生きている限り,必ず持っています。

 なお,表皮(皮膚の一番外側の部分)は周辺皮膚から再生してきますが,傷が比較的浅く傷の中に汗を出す腺組織や毛包が残っていると,これらの皮膚付属器からも表皮が再生されます。この程度の傷の場合は,傷の収縮現象は基本的には起こりません。また,縫合した場合は皮膚の連続性がほぼ再現されたわけですから,今お話した傷に対する生体の反応も少なく皮膚の各機能も回復しやすくなります。
 このように傷は自己治癒力により治っていくはずなのに,なかなか治らないことがあるのはどうしてなのでしょうか?そこには,どのような原因があるのでしょうか。



イメージ収縮も治癒には大切です

イメージ傷が治るサイクル

(急性反応期=炎症期,増殖期=組織増殖期)